第8話

文字数 809文字

   聖也⑥

 聖也は、唐突に、伯父の別荘に戻っていることに気づいた。
 海洋連邦宇宙軍の制服のまま、ベッドに横たわっていた。慌てて起き上がると、部屋の鏡をみる。三十路を間近に控えた自分の姿が映る。
 馬鹿な。
 伯父の別荘は古くなり、数年前に取り壊した。もう、ないのだ。
 それに――。
 聖也は思い出した。自分は、火星探査ミッションに行き、そこで小型船で漂流し、死を待つばかりになっていたはずだ。
 これは夢か?
 壁のカレンダーを見ると、十五年前。あの年だ。真由の祖父、城島健介が急死し、真由がいなくなったあの年。
 今は、何月何日だ?
 もう、予想はついていた。ベッドルームの端末モニターのスイッチを入れると、日付が浮かび上がる。
 あの日だ。
 真由の父親と会い、結局何もできずに、真由を失った日だ。
 ということは、聖也、十五歳の聖也がソファにいるのか?
 確認しなくてはいけない。
 聖也は、そっとベッドルームを抜け出すと、リビングへと向かう。リビングに明かりはついていない。だがあの日、聖也は部屋を暗いままにしていた。
 ――いるのか? あの日の自分が? あの日の自分と対面してしまったら、何が起きるのか?
 そもそも、時間を遡るなど、あり得ない。とすればこれは夢なのだろうか。もう一度、あの日をやり直したいという自分の夢なのだろうか。
 リビングへのドア、その嵌め殺しのガラスから中を窺うが、どうやら人の気配はない。夢であれば、何でもありだろう。何が起きたところで、小型船に戻れば自分は死ぬしかないのだ。何も恐れる必要などないのだ。
 聖也は、思い切ってリビングのドアを開けた。
 ソファには、誰もいなかった。
 ――そう、恐れることなど、何もない。
 聖也は、腰のホルダーに手をやった。宇宙空間、あるいは船内での作業用の万能工具。低出力で的に向けて放電すれば、数メートル先の人間に対してスタンガン代わりになるはずだ。
 ――真由を助けに行こう。
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