Ⅱ『三風谷村水没前夜』

文字数 983文字

殺気!

営業さん、飛んできた灰皿をナイスキャッチする。

店長さんが現れる。

やるな。
店長! どういう風の吹き回しですか、そちらから足を運んでくださるなんて。

今日はクレームを入れに来た。

ええっ! 嫌です! お引き取りください!

顧客に対してその態度は何だ!

すいません、つい!

用件は今月14日に仕入れてやった『三風谷村水没前夜』についてだ。
は……はい。一体どのような……
近所の高校生がこれ買ってったんだが、今度、演劇部の公演で使いたいって言うんだわ。
本当ですか!
ああ。
やったあ!!
気づけバカヤロウ!
なぜ灰皿が飛んできた!?
マジで気づかねーのか。そんなだから独り身なんだぞ。
うう……
公演で使うんだから当然キャストとスタッフの人数分必要だろ。全員にタブレットとこの戯曲買えってのか?
ああっ、そうか! 台本として使おうにもKindleは印刷できない!
企画した時点で気づけや。

すいません! すぐ作者に電話します!

五分後。
決まりました。専用フォームから上演許可申請を送ってくれれば、上演許可に際して、PDFファイルを無料で差し上げるとのことです!
ふむ。それならいいだろう。例の高校生にはあたしから伝えといてやる。
ありがとうございます!
ちなみに使用料っていくらなんだ?
有料公演は一般前売チケット20枚分、無料公演なら無料となっております。

なるほど。良心的だな。

ちなみに一般前売チケット30枚分で書き下ろしも承るそうです。

それはあたしに言われても困るな。

そうですね。
まぁとにかく、台本として使う場合はPDFが貰えるってことをどこかに明記しとけよ。
そうします! このたびはクレームありがとうございました!
クレームじゃなくて「貴重なご指摘」だろ!

灰皿で直に殴られた!

行動十二戯曲Ⅱ『三風谷村水没前夜』(森山智仁・著)

Kindle版 250円


北海道平取町三風谷村。

アイヌの聖地たるこの場所は明日、ダムの底に沈む。

過熱する反対運動を尻目に、早坂マコと野本ユキエは淡々と引っ越しの準備を進める。

先祖にも故郷にも執着なし。基本無駄話。

ダム工事の関係者に幼馴染みがいたりする。

ごめんなさい、真面目に生きられない。

大切なことって何だっただろう。

「ねぇ、何かしようか」。

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最初と最後を除けば場面転換なしの戯曲。

主要キャストは男性3名・女性5名、上演時間は推定1時間40分です。

表紙:杉浦昭太郎

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登場人物紹介

営業さん。趣味は旅行。

本屋さん。趣味は蕎麦屋で一人酒。怒ると灰皿を投げる。

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