No.01『野性動物だって楽がしたい』

文字数 1,422文字

仕事が休みの日は早起きして近所の丘に向かい小1時間散歩する。それがここ数年の僕の楽しみです。

雨の日と大雪の日以外は、なるべく欠かさず丘に向かいます。

自然に囲まれた丘は四季折々の顔を見せてくれます。早朝の誰もいない丘でそんな自然を散策することは、僕にとって極めて重要なストレス解消法です。

冬になると丘の遊歩道に雪が積もります。丘とはいえ裏は山に繋がっていますから、平地よりも深い雪が積もります。

その日も30cmの雪を踏みしめながら散策を開始しました。

今年はかんじきを買いたい。

そんなことを思いながら、雪が積もった遊歩道を長靴でズブズブ歩いていくと、途中から先人が踏み固めたものと思われる細い道と合流します。

迷わず先人の踏み固めた道に沿って歩き始めます。やはり、踏み固められた道と未開の雪道とでは歩きやすさに雲泥の差があります。

冬の早朝の丘は雪深い上に冷えます。零下になるには当たり前ですが、そんなデメリットを上回るメリットが、冬の丘にはあります。

それは、野性動物の足跡に出会えることです。

先ほども記したように、丘は半分山ですから、野性動物も暮らしています。ただ、ここ何年と丘に通っていますが、未だに一度も御目にかかったことはありません。夜行性の彼らが、昼間に人目につくような行動をとらないからでしょう。

そんな見たこともない彼らの存在を、雪に残った小さな足跡が、知られてくれます。

タヌキでしょうか?
イタチでしょうか?
ウサギもいるのかな?
クマやイノシシは看板で存在を知っていますが…

そんな彼らの足跡を追ってみるのも、冬の丘散策の醍醐味ですが、大抵、足跡の先は崖のような斜面に続いているので追跡を諦める場合が常です。

深い雪の上を逞しく駆けたであろう、数時間前の足跡を横目に歩いていると、少し先の方で、先人が踏み固めた道を横断するよう続いている野性動物の足跡を発見しました。

その足跡は明らかに先人の道と垂直にぶつかっていました。ところが、先人の道と交錯した直後、野性動物の足跡は交錯した先ではなく、先人の道を辿って同じ方向に向かって伸びていたのです。

そうです。遊歩道を横断しようとした野性動物の彼(彼女?)は、先人の道が歩きやすいことに気づいて進路を変更していたのです。たぶん。

あれ?お前はアッチ側に行きたかったんじゃなかったの??

先人の足跡の上に確かに残された彼の小さな足跡。



立ち止まり、考え過ぎてみて、苦笑です。

厳しい自然界で道なき道を突き進む。文字通り獣道を自ら開拓していくイメージの野性動物。

社会の中でも同じように「人が作った楽な道を歩くな!お前が新しい道を切り開くんだ!」そんな教訓こそ感じられそうな野性動物から、まさかのメッセージ。

「たまには楽したっていいじゃん(仮)」

そりゃそうだよな。野性動物って言ったって、同じ動物だもん。楽したい時だってあるよな、って。そう考えてしまいます。

だから、人間が楽したいって思うのも当たり前なのかも知れないな、と。

仕事中、つい楽がしたいって思ってしまう。そこで「いやいや駄目だ。仕事なんだから」と思い止まって頑張りすぎて心と体を壊す。そんなことを繰り返すくらいなら…

「たまには楽したっていいじゃん。野性動物だってたまには楽したいんだもん(仮)」

ただ動物の足跡を見つけただけ。

それがたまたま人の足跡と重なっていただけの話。

勝手に考えて過ぎて、勝手に心が軽くなった冬の丘。辺りが明るくなり始めた早朝6時半でした。
















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