No.06『財布をなくすと高額当選が怖くなる』

文字数 1,773文字

いろいろあって、先日生まれて初めて財布を無くしました。鞄ごとです。

財布にはクレジットカード。鞄には通帳が入っていました。

休日の夕方でしたが、急いで警察を含め銀行やカード会社に連絡して、諸手続きを行いました。

幸運にも…

親切な方が然るべき場所へ届けてくださっていたおかげで、翌日には全てが無事に戻ってきました。

財布を無くした場合、多くの人が同じ様な段取りで動くのではないでしょうか。

財布を無くして、考えました。

「お金は人を変える」

この言葉は"急に大金を手にした人は、考え方が変わってしまう"という意味だと思っていました。

この度、自分がお金を失いそうになってみて、"急に大金を失いそうになった人"も、考え方が変わってしまうということに気がつきました。

もちろん、僕の財布に一般的に考えるような大金が入っていわけではありません。クレジットカードも使用限度額は二桁です。

それでも、僕にとっては十分な大金です。

それを紛失し、どこにあるのか、誰の手にあるのかわらない状況になった時、僕の心を支配していたのは全ての他人に対する疑いだけでした。

親切が人が、ちゃんと届けてくださっていたのにも関わらず。

偽善に聞こえるかもしれませんが、僕は人は親切な人がほとんどだと思って生きてきました。

幸運にも、これまでの人生で親切な人と出逢うことが多かったことも、そう考えるようになった理由だと考えます。

ところが、財布を無くした瞬間に、お金を失いそうになった瞬間に、その考えは塗り替えられたのです。

僕の心は、お金が絡んだことで変わってしまったのでした。

翌日、無事に鞄と財布が手元に戻り、僕は考え過ぎ始めました。

ということは、もしも自分が大金を手にしたら今回のように他人を信じられなくなるんじゃないか、と。

大金を持つということは、大きな喜びがある反面、失う恐怖も大きいと考えます。
金額が大きくなればなるほど、自分で消費するだけでなく、誰かに狙われるのではないかという疑いも大きくなるのでは。

どこかの誰かが、どういうわけか自分が大金を手にした情報を手に入れて、狙ってくるんじゃないか。家族が誘拐されるんじゃないか。家に空き巣が入るんじゃないか。
あいつもこいつも、実は自分が大金を手にしたことを知っているんじゃないか。どうやって自分に近づこうか計画してるんじゃないか。さっきから後ろをついてくる車は何か狙ってるんじゃないか。今鳴った電話は自分を脅迫するつもりなんじゃないか…などなど。イメージしただけでも人を疑う心は雪だるま式に大きくなります。

だったら必要な分だけ残して、寄付すればいい。

そう考えてもみましたが、一度大金を手にしていたという事実に変わりはなく、大半を寄付したことを知らないあいつとこいつに狙われるとか、寄付した先の人間に大金を持っていたことがバレるとか…余計に疑いは広がるような。

絶対とは言い切れませんが、大金を手にしたらきっと僕はまた他人を疑うようになる。そう考えてしまうのです。
言い換えれば、他人を疑わないで平常心で生活できる金額が、自分が手元における上限だと思うのです。

例えば僕の場合、自分の通帳に1億円が入っていたとしたらもう無理です。きっと平常心では生活できず、いつも他人を疑った日々を送ることになるでしょう。

そう考えると、おそらく住宅ローンと同じくらいの金額が、僕が手に負え、平常心を保てる大金の限度額なんだろうなと。もちろん、豪邸の住宅ローンではなく。

人によっては、1億円を持っても他人を疑わずに平常心で生きていける方もきっとたくさんいるのでしょう。
大金を手にしても人が変わらない。
そうであることが最も理想的なのかもしれません。

けれど、この度財布を失くしてみて、僕はそれができない人間だとわかりました。

他人を疑いながら大金と共に暮らす日々。
大金はなくとも人を信じて暮らす日々。

僕の場合、その二択になるようです。

宝くじで高額当選しませんように。当たるとしても軽自動車一代分でお願いします。

一度凍結したクレジットカードの変更手続きをしながら、そんなことを考えていました。

まぁ。

僕が他人を信じていると言っているのは上っ面だけ。そんな自分を演じて、いい人アピールをしたいだけ。心の奥では常に誰も信じていない。

"お金"がその化けの皮を剥いだだけ。

なのかもしれませんが。

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