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文字数 1,038文字
「──それじゃ、行くか!」
いつもの衣服に身を包み、その背にリュックを背負った少年は、柔らかな頭にポチを乗せながらそう言った。
時刻は朝の五時半。起きる者は既に起きているこの時間帯、彼らは拠点探しに向けて出発する。移動手段は徒歩やタクシーではなく、昨日からずっと外で待機してくれていたドラゴンだ。
なるほど、こいつがいたから、だから相も変わらず外には人の姿がないのか。
静かすぎる首都の様子に頬を掻きつつ、少年は見送りに出てくれたベナンと二ルディーに向き直る。きっちりとスーツを身に纏う彼女たちは、既に仕事モードだ。
「何度も言うけど、ありがとね。泊めるくらいしかお礼できてないけど、ぜひまた、こっちに来た時はここに寄って頂戴。その時は美味しい料理振舞ってあげるからさ」
「おう! 期待してますぜ姉御! ちゃんとこっち来る時はオルラッド連れてくるからそこら辺も安心しどへぶっ!?」
ベナンの無言の一撃(物理)により倒れたジルを、二ルディーがザマァみろと言いたげに見下ろす。彼女の心の中は恐らく、今頃草にまみれていることだろう。許すまじ、押し付け店員。
「へ、変なことは言わなくて結構! 全く、子供が大人をからかうんじゃないわよ!」
「だってベナンさんとてもわかりやすいから面白くて……うおおっし! 出発しようか! そうしよう!」
般若の如き形相で睨まれ、ジルは慌てて踵を返した。片腕をあげて歩き出す彼に従うように、待っていた仲間たちは待機の体制を崩す。
「いいの?」
確認するミーリャに、少年は一度だけ、大きく頷いた。
「──さあ! 飛びなさい!」
アランの楽しげな声と共に、ドラゴンは咆哮をあげ飛翔。首都の道路に強風を巻き起こしながら、上昇していく。
「ありがとうございましたぁああ!」
徐々に離れいく地上に向かい、ジルは叫んだ。そんな彼に、見送る二人は片手をあげる。返されたのは笑顔とそれだけ。自分にとっては十分な返事だ。
ある程度の高さまでいくと、ドラゴンは再び咆哮をあげ、体を前のめりに。そのまま空気を裂くように飛び立つ巨体は、すぐにその姿を小さくしていく。
出会いはそれほどだが、別れのインパクトは絶大だ。
「不思議な奴ら、だったわね」
たった数日の付き合いだが、嫌でも記憶に残る者達だ。当分は彼らのことを忘れまい。
ベナンは後ろ手で腕を組み合わせ、そのまま踵を返す。そんな彼女について行く二ルディーは、一度だけ背後を振り返ると、一礼。何事もなかったように店の中へと戻って行った。