翡翠の卵
文字数 417文字
怪物から逃げる時、碧色の卵を置いていった。
硬くて重い翡翠の卵を、君に。
君を見捨てて逃げた僕は、君を迎えに行きたくて、イタドリの陰から君を見ていた。
君は不定形の怪物を背負って一人喘いでいた。
僕は君を呼んだけれど、君は一瞥をくれただけで、怪物をしっかり背負い直した。
君がずっとそうしてきたのは知っている。
僕らが出会うよりずっと前から、君は怪物と生きてきたんだ。
引き離そうと目論む僕に、怪物は触手を広げて威嚇する。
触手は僕の心臓を掴んでいる。
僕が諦めるまでじわじわ握り潰す。
僕の卵に君は気付いてくれただろうか。
僕の魂の欠片に。
怪物の餌にすることなく、隠し持ってくれているのだろうか。
兜の下の君の顔は、僕にはもうわからない。
もしも君が卵を抱いて温めていてくれたなら、脆くて暖かい何かが孵るだろう。
怪物の手を退けて守り育ててくれたなら、怪物を溶かす熱源になるだろう。
それはもういない僕の祈り、君に託す僕の残滓。
硬くて重い翡翠の卵を、君に。
君を見捨てて逃げた僕は、君を迎えに行きたくて、イタドリの陰から君を見ていた。
君は不定形の怪物を背負って一人喘いでいた。
僕は君を呼んだけれど、君は一瞥をくれただけで、怪物をしっかり背負い直した。
君がずっとそうしてきたのは知っている。
僕らが出会うよりずっと前から、君は怪物と生きてきたんだ。
引き離そうと目論む僕に、怪物は触手を広げて威嚇する。
触手は僕の心臓を掴んでいる。
僕が諦めるまでじわじわ握り潰す。
僕の卵に君は気付いてくれただろうか。
僕の魂の欠片に。
怪物の餌にすることなく、隠し持ってくれているのだろうか。
兜の下の君の顔は、僕にはもうわからない。
もしも君が卵を抱いて温めていてくれたなら、脆くて暖かい何かが孵るだろう。
怪物の手を退けて守り育ててくれたなら、怪物を溶かす熱源になるだろう。
それはもういない僕の祈り、君に託す僕の残滓。