家の剥製(住む人のいなくなった家の話)

文字数 244文字

 住む人を亡くした家に介錯人が自転車で来て、内臓をトラックに運び出し、緑の衣服を切り倒し、家を剥製にしてしまった。

 介錯人たちが去った後、便りを受ける鼻を塞がれ、裸に剥かれている他は、以前と変わらないようにも見えたけれど、その実やっぱり空っぽなのだ。

 血も肉もなくしてしまった、骨と皮だけの張りぼての家。何も巡らない、風化を待つだけの物体。

 生皮はまだ湿っている。

 灰色に腐ったサボテンの頭に残った緑色が、家の血液の最後の一滴。

 どうかまだ乾かないように。

 あと少しだけ、乾かないように。
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