鶏鳴狗盗

文字数 1,008文字

「今回がはじめてじゃないだろ」

スーパーの事務室で、万引きをした不良の高校生に対して、店長が厳しい口調で問いただす。
防犯カメラの位置を把握して画像が写らない場所で犯行に及んでおり、初犯ではないことは明らかだ。

「窃盗なので親御さん、警察、通っている高校に連絡します。」

と高校生にいって事務室の電話の受話器をとり、電話を警察にかけようとしたところ、

「まぁはじめてだと本人が言うのだから今回は警察などへの連絡はしないでいいじゃないか」

とスーパーの店長に、たまたま拠点訪問中にその店舗の事務室をおとずれた社長が言った。

「それでは何度も犯行を繰り返してしまい、わが社にとって大変な損害です。」

店長は社長の対応に不満を言うと、社長は自分が店長時代にあったエピソードを店長に、話しはじめました。


「15年前、私がスーパーの店長をやっていた頃、震度7強の地震が勤務中におこり、アルバイトの従業員が瓦礫の下敷きになってしまった。助けようと手で瓦礫をよけてみたが重いものをどかすことは無理だった。
スーパーの店舗近くに工事現場があり、瓦礫を取り除くのに最適な重機があったのだが、鍵がついておらず、動かすことができなかったのだ。
その時、たまたまスーパーにいた不良が機械を盗む方法を知っていたらしく、

「おっさん。こうやればエンジンかかるぜ。」

といって、マイナスドライバーを重機の鍵穴に強引に突っ込み、エンジンを始動させてくれた。そのおかげで、重機をつかって重い瓦礫の除去が出来て、アルバイトの従業員を助け出すことが出来たんだ。
その従業員を到着した救急隊に病院に運んでもらった後、家族のいる高校の避難所を訪れたところ妻や子供から聞いたんだが、飲み水が断水で出なくて困っているとき、不良の高校生が高校の古い自動販売機を壊して飲み物を取り出す方法を知っていたので、自動販売機を壊して飲み水を確保することができたとも言っていた。

普段は迷惑でしかないことをしている不良でも、有事の際にはその知識が役に立つときがあるとその時私は思ったのだ。
前途ある若者に寛容な態度で接することが我々大人としての適切な対応なのではないだろうか?」

ここまでの話を聞いて、店長は

「それでは、社長からの口頭での厳重注意でよろしいでしょうか?」

と尋ねたところ、社長が

「いや、二度と万引きする気も起きないぐらいぼこぼこにぶん殴る。」

といって高校生をぶん殴り、高校生を改心させましたとさ。


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