高熱

文字数 819文字

 熱をだした彼女が変に艶っぽく見えてしまって飽き飽きした。
 おとこっていうのはせいよくのいきものなんですよ、これはね、おとこだったらだれだってそうですから、おれのことを安心しきるのもよくないんですよ。口を酸っぱくして言っても彼女はいつも、えぇでものぞむくんは変なことしないよね? なんて言うから困ってしまう。おれだっておとこですからね、なにしでかすかわかりませんよ。でものぞむくんからそういうにおいぜんぜんしないし。

 はぁはぁといつもより浅くてはやい息。やわく口を開けているから、唾液で濡れたところが見える。いつもきめ細かな粉がはたかれている肌も、じっとりとした汗でべたべたになっていて、髪の毛が張りついている。
 さみしいからこっちきて、なんて言って引きずり込まれたベッドのなかで、彼女のあついあつい体温を感じている。のぞむくんのからだ、つめたくてきもちいい。向かいあった体勢のままこてんと眠った彼女のあまりの無防備さ。

 苦しんでいるあなたに手を出すことなんてもってのほかだけれど、ここまで無防備な姿をさらされてはこちらの理性も弾けそうになる。あつくなって汗にまみれたあなたの表面をすみずみまで舐めたい、パジャマの下でなににもはめこまれずにとろりと落ちる脂肪のかたまりに触れたい、うつるから、と嫌がるあなたに口づけをしたい、あなたの口から漏れだすあつい息を吸いたい、生理的な涙でいっぱいになった目を見たい。

 けれど、それだといけない。付き合っていようと、どれだけねんごろな仲でも、それはレイプだ。おとこっていうのはせいよくのいきもの。こんなことを言わなくてはいけない「おとこ」が、その一員である自分が嫌いだ。そんな欲求、無くてよかった。
 彼女のあついあつい背を撫でる。彼女に触れるときいつも、思っているよりもずいぶん、ほんとうにずいぶん、ちいさいのだなと思う。このちいさなせいぶつを傷つけてはいけない。そのために今日も、本能に蓋をする。
 
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