ラーメン

文字数 789文字

 幼馴染でずっと隣にいたから、なんでも言い合える仲だった。けれどいつからか、隣で笑う彼女を守ってあげたいと思うようになった。
 腕相撲では負けることがなくなったというよりは、華奢な彼女と腕相撲なんてできなくなった。小さい頃は同じくらいだった背も、いつのまにか自分のほうがずいぶんと高い。それは、大きくなったねえ、なんて笑う彼女の手がもう頭には届かないくらいには。
 高校に入って明るく染めた髪は、彼女によく似合っていた。
「彗は」
 帰り道、彼女はきっちりと着た制服を揺らしながらすこし前を歩いていた。
「彗は、大学、理系でしょ」
「このままずっと、なんてないんだもんね」
「ずっとこんな毎日が続くと思ってたら、大間違いなんだね」
 ここのところ手入れを怠ったのかぱさぱさと広がった髪と、幼馴染であることに驚いてしまうほど整った顔はどことなく、すごく不釣り合いでおかしかった。
「ねえ彗、ラーメン食べに行こ」
 髪の毛とスカートをぶわり広げて、勢いよく彼女が振り返る。
「……仮にも女の子がラーメンばっかり食べてたらニキビが増えちゃうんじゃない」
「いいのいいの、今さあやは彗とラーメンが食べたいの」
「ちょっとびっくりしちゃったな」
 彼女の気持ちを代弁するかのように、彼女のスクールバッグがぶんぶん振りまわされる。ちゃんと教科書を持って帰ってきているのだろうか? ずいぶん軽そうで笑ってしまう。ほら彗、行くよ!
「彗おごってね」
「なんでおごらないといけないんだろうね」
「なんでって、彗、さあやが金欠だからに決まってるでしょいい加減にして」
 真顔でそうのたまう彼女が強引に俺の手を引く。こんな日々もずっとは続かない、そんなことはわかっている。けれど、頭では分かっても実感がわかない。
 けれど今くらいは、このままで。引かれる手にそのまま身を任せ、仕方ないなあ、と笑った。
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