2―2

エピソード文字数 2,621文字

「説明してもらおうか」

 山中の一角。そこは今、張り詰めた空気に包まれていた。
 ルーカンが起こした、枝を異常に変形させる現象…… その答えを、威圧的なゾアに問われる。
 だが、ルーカンは口を動かさない。代わりに、右腕を静かに動かす。
 ポケットへ伸ばし、固く手を握り、再び外へ。
 ゆっくりと、ゾアの見ている前で、掌を開いた。
 瞬間、ゾアの眉間のシワが険しくなる。
 今、手のひらにあるものは、皆にとって馴染みの深い〝コーカトリスの石〟である。

「それだってそうだ。どうやって俺たちの石に声を掛けたのか、まだ説明が無かったな」

 そもそも、皆からすればこの始まりは、ルーカンの声が、所持していたコーカトリスの石を通じて聞こえてきた現象にある。
 それだけでも不可解である。不気味に思われるのも無理はない。
 さらに先刻の枝の件。ゾアが不審がるのも、やはり無理はない……

「この力に気付いたのは一ヶ月前。俺にとってもこの石がきっかけだったんだ」

 ルーカンは、冷静さを意識し語る事にした。

 懐かしさ。
 それが始まりだった、と最初に告げる。

 生まれ育った村は謎の大爆発により崩壊。それ以降、村を離れることを強いられ、孤児院に入り、さらにその後、引き取り親の元で新たな生活…… と、めまぐるしく人生が移り変わる中、常に心には子どもの頃の思い出があった。
 コーカトリスの石はその象徴とも言えるもの。小さな箱に保管した石は、見る度に懐かしさを覚えさせた。
 その石がある日、いつにも増して懐古を纏っていた。
 何気なく手にした時、仲間の姿が頭をよぎった。
 それは、幼い日のものではなく、今の、知り得るはずのない大人の容姿。
 気が付けば、自然と石に語りかけていた。
 そして……

「その声は俺達の石に届いたって事か」

 あっけらかんとしたゾアの声。
 意外な反応に、ルーカンは目を丸くした。

「声がしたのは事実だからな。それに、おまえは昔から嘘はつかなかった」

 率直な意見だった。
 そういうざっくばらんな所も、負けず嫌いな所と同じく昔と変わらない。
 今のルーカンには、それが救いに思えた。
 だが、正直なところ、ルーカン自身もまだ力の正体を解らないでいた。
 先刻の枝の件も、事前に試したわけではなかった。なぜかあの結果になると思い、投げたのだ。そして想像は本当になった…… 未だ不可解なこの力は、自身にとっても厄介だった。
 話を聞いていたゾアもまた、厄介そうに頭を掻き出す。
 
「てことはまさか…… 石が原因か? なら俺にも異変があるはず……」

 当然の推論である。
 しかし、話し合いの結果、石は無関係だろうと結論付く。
 石は珍種である事は間違いないが、それだけである。妙な力が宿るきっかけにはなり得なさそうだったからだ。

「やっぱり、〝あれ〟かもな」

 ルーカンは、恐る恐る口を開いた。

 かつて、山あいの村に起きた謎の大爆発。そう、自分達の故郷を襲った畏怖する現象こそ、異常な力に関係しているのではないか、と。
 根拠はない。だが、妙な説得力はあったらしい。 皆、真顔で「なるほどな」と頷いた。

「……ほんとは俺一人でぜんぶ解決出来れば良かったんだけどね」

 ルーカンは、この力に気づく前、一度ここに一人で来る旨を決めていた。
 だが、力に気付き、コーカトリスの石を通じ仲間と意思疎通が出来て以降、考えが変わっていく。
 始めにセレアに声を掛け、その後はゾア達と…… とんとん拍子に声を交わせた時は、素直に会えるだけで良いと考えた。
 だが、最後に声を掛けたテムが、全てを動かすきっかけとなった。
 テムが自動車に関わる会社に、しかもその会社の重役だという事実。それを会話で知ったルーカンは、テムの実績と権限なら、立ち入り禁止区域である村を簡単に通過出来、さらに自動車も楽に手に入ると考えた。
 それならば、断然一人で行くよりも有利に計画を進められる。更には仲間とも一緒に行くことさえ可能だった。
 ルーカンは、石を通してその考えを熱弁し、聞いたテムはそれに応えた。
 実行日はテムが一ヶ月後と指定。それが今日だった。

「本当は解ってたんだ。みんなここへ来るのを嫌がってるってこと」

 仲間と会えるだけでいい。そう思っていたはずが、忘れたい過去を掘り下げる様な愚行を、私欲でみんなに強要してしまった。
 その上、もし自分の力を知ったら、きっと不気味に思われるに違いない。そんな自虐心が、力を話す事を拒否していたのだった。

「……気に入らないな」

 怒りを吹くんだゾアが呟きだ。
 つい気を強ばらせるが、次に思いがけない言が降りかかる。

「お前さっき言っただろ。一番はじめにセレアに声を掛けたって。まずは散々お世話になった俺に声を掛けるべきだろ」

 ルーカンは、意味が解せず、呆気にとられた。
 ゾアは、呆れた風にさらに続ける。
 
「不気味なのはお前のそのウジウジした考え方だ」

 張り詰めていた空気が、幾分和らいだ様に感じた。

「確かにそうね。ルーカンは考え込む癖があるから…… 誰もここに来るのは嫌じゃないし、ルーカンを避ける人なんていないわよ」

 和やかな空気、そして、今のセレアの言葉に、ルーカンはようやく察する。
 自分は許されているのだ、と。そればかりか、悩みは馬鹿馬鹿しいものだったのだ、と。
 込み上げる安堵。
 心に注がれる、皆の暖かな声。
 ルーカンは、押し寄せる感情を抑えきれず、目元から僅かに零す。

「でも、まさかそこまで追い詰めてたなんて思わなかったよ」

 ホッとしたもつかの間、なぜかテムが、ばつが悪そうな顔をする。
 一体どうしたのか……  頭を下げ、さらには詫び始めた。

「実は……」

 テムは、姿勢を正したかと思うと、徐に前方に手をかざした。
 手の向いた先の空間、そこが何やらぐにゃりと歪曲し始めた。
 さながら陽炎。だが、生まれるものは水泡の様な膜。

「……僕もこんな事が出来るんだ。ルーカンと同じで、なかなか言い出せなかった」

 ルーカンは驚き、同じく驚く仮仲間と一緒に作られた空気の膜を見る。

「……全く、お前ら。むしろ羨ましいくらいだぜ。俺なら隠さず自慢してる」

 両手を挙げ、やれやれと、ゾアは言った――
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