2―3

エピソード文字数 2,057文字

 落ち着いたルーカン達は、遅れた分を取り戻すべく目的地へと急いだ。
 悪路のせいで置いてきた自動車は、はるか向こう。それでもなお、狭い登り道は続く。
 道中、ルーカン達はゾアを先頭にした一列で、狭い坂道を歩いていた。
 本来ならば、車二台は通れるほどに広い道。
 だが今は、周りから伸びるてくる木の枝が、両手を広げれば届く程に迫った狭い道。更に、ひび割れた舗装の隙間からは草や木の根が姿を現し、躓く危険があった。
 一〇年間放置された結果といえど、自然の再生力が早く感じられる。
 猛獣の襲撃を考慮し、五人の会話は自然と減り、歩数だけが増えていく。だが、口数が減ったのは、そのような理由でも、ましてや先ほどのルーカンの独白のせいでもなかった。
 確実に、一歩一歩、過去へと近付いているという事実に、圧倒されていたのだ。


 歩く事、更に一時間。
 丘を巻くようにして伸びる坂道が、足を襲う。だが、この道を終えれば下り坂になることを、皆はよく知っていた。それを更に過ぎれば、目的地の故郷があることも。

「……や、やっぱり変だよね」

 列の最後尾からルイナの言。
 先頭から二番目にいるルーカンは、振り向けずただ頷いた。額にうっすら汗を滲せながら。

 そう。確実に何かおかしい。
 この先に待つものは、大爆発で消失した小鉱山の村。
 襲った爆発は、小鉱山以外の全てを壊滅させる程のものだった。
 いくら村の地形が山に囲まれた盆地だからと言って、数キロしか離れていないこの周りの森に影響がないとは考えにくい。

 不穏を連れたまま、ルーカン達は坂道を登り終えた。残りはついに村に直結する下り坂のみ。
 道も、歩行者を迎えるように大分広くなる。 ルーカンは、先頭のゾアの背をずっと見て進んでいた。
 と、その背が次第に遠くなっていく。
 置いていかれまいと勇んだ、その時。

(懐かしい……)

 昔よく通った道に、自然と脳が反応した。 しかし、やはり感じる事は、懐古の念より懐疑の念。
 冷静に努めようとする精神。その中から無理やり排斥された熱は、そのまま脚へと伝わり、地を蹴るエネルギーへと変わる。
 左側の木々の隙間、ついに、村の一部が視界に飛び込んだ。が、ルーカンはそれを見ていない。
 道も、既に村の領域へと達していた。それでも、足は立ち止まる事なく走り続けた。

『あ、あれは何だろう……』

 脳裏にフッとわき上がる幼い頃の自身の声。

 あの日…… コーカトリスの石を手に入れた午後の帰り道。その時、確かに仲間と見た。
 村に落ちる、青白い火球の様な巨大な光を。その後に起こった爆発を……

 だが、現状はどうだろう。
 眼前に広がる光景は、何故か昔とまるで変わらない。
 いや、確かに変化はあった。道路は崩壊、道なりに点在する全ての家屋も、壁が剥がれ落ち半壊していた。
 だが、それは単に風化によるものである。それが、たまらなく恐ろしかった。
 萎縮したものの、ルーカンは意を決し、猪突。
 いつの間にかゾアを追い越し、猛進。
 ゾアも対抗心が湧いたのか、突進。
 隣に迫ったゾアの形相に、ルーカンは思わず笑いを覚えた。
 と、セレア達と一緒に後方を走っていたテムも、息を切らし追いついて来る。
 肩を上下させ、疲労が見える。だが、その表情は、何故かニヤけていた。

「セレアが言ってたよ。ルーカン、なんだか頼もしくなったって。ルイナもすごい頷いてた」

 息も絶え絶えだった。が、声色はやはり陽気である。
 聞いたルーカンは短く声を出し、赤面する。
 辺りは依然、緑と、朽ちた家屋。妙な重圧はあるが、おかげで気は大分楽になった。

 その後はしばらく、靴音だけになる。
 カツカツと、空谷をまばらに打ち鳴らす。
 完全に言葉が途絶えた一五分後……

「来たな」

 ついに村の中心地に踏み込んだ。
 古めかしさはあるが、さほど崩壊していない石造りの家が隣り合わせに数一〇件、道なりに並び立つ。
 見覚えがある家屋は、やはり記憶の中と変わらない。感じる畏怖の念も、変わらない。

「……なんか、寂しいね」

 久方振りに辺りに響く、セレアの声。

「だって、そうでしょ? こうやって里帰り出来たのに、喜ぶことが出来ないなんて」

 俯くセレア。その肩は僅かに震えていた。

 かつて、ここで起きた謎の大爆発。奇跡的に生き延びた五人は、その時の真相に近づくべく再びこの地を踏んだ。だが、それだけの為に来たのだろうか…… 答えは、否。

「確かにな。ここは故郷だ。あの草原で転げ回ったり、あの山から村を眺めたり……」

 ゾアがわざとらしく辺りを見渡す。つられてルーカンも緑を見やる。子どもの様に、大袈裟に。
 皆も、同じく〝ごっこ〟をはじめた。

 ――探検しようか。

 そんな言葉が自然と溢れる。
 そして、よーい、どん。
 向こうまで競争と、セレアが言う。
 ルーカンは、一番に駆け出した――
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