第2話「森の中」

文字数 1,381文字

 空は、青。
 萌える緑に囲まれた山あいの村は、暖かく照らされますます萌える。

『きょうもいい天気!』

 子どもの高い声がこだました。
 周りの木々からは、それよりもにぎやかな虫の声。
 太陽さんさん、虫はじーじー。今日の日よりはまさに、

『絶好のたんけんびより!』

 だった。
 村の子どもは当然じっとしていない。
 中でも、土の道を笑顔で走る一〇才くらいの五人の子ども達は特別だった。
 ルーカン、ゾア、テム、セレア、ルイナ。五人はいつも一緒。 もちろん遊ぶ時も一緒だった。
 そんな五人は今日、テムの提案で、宝探しに行くところ。
「何処に行くのか」と見かけた大人たちが心配そうに聞いてくる。
 五人はその度「しごとのけんがく」と口をそろえた。

 村には小さな採掘場があった。
 男手の多くはそこで働き、生活を支えていた。もちろん、五人の親にもそこで働く者は居た。
 しかし、五人の足はそこへは向かわない。間逆の位置にある山林へと進んでいた。
「しごとのけんがく」ではない、本当の目的のために。
 山とはいえ、向かう先は子どもでも行ける楽な場所。けれども、山。獣の心配がある。

 山に入ってから約一時間…… ルーカンは、少し怖じけづいていた。
 森の奥から何か音が聞こえる度、泣きそうになるが、同じ反応をするルイナを見、なんとか気を落ち着かせる。
 ゾアとセレアに励まされつつ、びくびく歩く。
 山に慣れてきた頃、ようやく見晴らしのいい場所にやって来た。
 小高い場所。そこから見える、村の景。
 タン、タタンと何かを打ち付ける音が、村から響き、耳に流れる。
 ひと心地したルーカン達は、更に歩を進めた。そして…… 


『あった! 本当にあったよ!』

 目的地の森の一角、セレアの喜ぶ声がした。
 着いて早々、一本の巨木に登ったセレアは、その先で何かを見つけたらしい。
 心配し、見上げていたルーカンは、元気な声にひとまずホッとする。
 と、遠目に見るセレアの手が、巨木に空いた大きな穴に入っていく。

『まだある…… ルーカンの分も取ってあげるね』

 無理はしないでとルーカンは言うが、セレアはお構いなし。
 手慣れた様子で、何やら小さな石ころを穴から取り出す。
 その時、他の巨木からも大きな声が聞こえて来た。

『ルイナの分も取ってやるからな!』

 テムの声である。そして小さく『無理はしないで』とルイナの声が。

『降りてこいよ!』

 と、そこにゾアの声も加わった。
 ルーカンは、巨木から戻ったセレアと共に、三人の元に向かった。

 そこには、不満そうに巨木から降りてくるテムと、得意げなゾアの姿。そして、ゾアから貰ったであろう小さな石を手にし、喜ぶルイナが居た。

『もっと高い場所の穴じゃないと石はないぞ』

 得意げなゾアは、さらに石をポケットから取り出し、テムに渡す。
 半ば無理やり握らされたテムは、どこか悔しそうに顔をしかめていた。

『じゃあみんな、集まって!』

 と、セレアの呼び声が。
 かけっこしようという提案に、ルーカンはゲンナリと肩を落とした。
 だが、よーいどん。
 今度は負けないと言うテムを皮切りに、かけっこは始まる。
 仕方なしに、だが、僅かに燃える負けん気で、ルーカンは元気に駆けだした――
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