過去の話3

文字数 1,078文字

善悪

「あれ、大先輩は?」
 朝の清掃の時間にいつも通りやって来たら大先輩の姿がなかった。いつもなら五分前には清掃業務をしているのに。
隣を通った丸型ロボットを呼び止め聞いてみれば「連れてかれたよ」とのこと。
連れてかれた? どこに? 誰に?
疑問符が浮かんでばかりだった時に、管理者がやってきた。
「管理者さん大先輩はどこ行っちゃったんですか?」
「大先輩?……ああ機体P-101のことかあれはな、ジャンクになることが決定した」
「は? なんで、ですか?」
 言っていることが理解できない、なぜジャンクに? 何のために?
「あれは型番が古いのに感情をもっただろう。あの機体が感情をもつことは法律で禁止されているんだ」
「それなら今の機体に交換すれば!」
「私もそう言ったんだがな、思い出が詰まった機体を交換したくないと言って聞かなかったんだよ」
 なんだそれ、なんだそれ。思い出なんて今からでもいっぱい作れるじゃないか。
「なんだよ、それ」
「私たちには私たちの善悪があるようにアイツにもなにか譲れないものがあったんだろう」
「そんな……」
落ち込む俺の肩を管理者はポンと叩くと「RN3240」と俺の名を呼ぶ。管理者の方へ視界を向ければ手のひらを開きアイツが渡してくれとさと言う。メモリチップだった。こんなもの残すくらいならあんたの口から別れを言ってくれよと言いたくなったが言う相手は居なかった。

寮に帰宅してからも暫くはメモリチップを読み込む気になれなかった。でもあの人が(人では無いが)何かしらを思って残したものなのだと思うと見ない訳にはいかなかった。
再生機にメモリチップを挿入しコードを自分の首元に繋ぐ。
ザザ、と砂嵐が入った後に大先輩の声がする。
『あーあー、これ入ってるんですか? 大丈夫? そっか。RN3240くん元気にしてる? 君のことだからすっごく怒ってると思う。でも僕はもう良くなっちゃったんだ。君みたいな友人もできて感情を知れて、色褪せていた世界がパッと明るくなってつまらなかった生活が凄く楽しくなった。ありがとう。君には感謝してもしきれないよ。……こんなものかな、ダラダラと話しちゃ君に迷惑がかかるしね、それじゃあまた会えたら。』
──プツン。
そこで映像は途切れた。なんだそれ。あんたはそれで満足かもしれないけど俺は嫌ですよ、もっとあんたと話したかったし下らないことがしたかった。それに。
「……俺のせいじゃねえか」
 俺と出会って感情を知らなければそのまま動き続けていたんだろう。それならジャンクになることを選んだのは俺の所為だ。
涙なんてものは流れはしないが頭がひどく痛んだ。
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登場人物紹介

RN3240(現在)

オートマタ

百年稼働している清掃の大先輩

もともとはヒューマノイドだったが、時間の経過と共に

身体を機械へと作り変えた。

嘘か本当か分からないことをよく言うので後輩には信用されていない。

Aq2oj

最近清掃場に入った新人ヒューマノイド

オートマタ先輩のいうことは八割嘘だと思っている

RN3240(過去)

ヒューマノイド

新人清掃員。滅茶苦茶よく喋る。喋らない暇はない位

よく喋る。その話術で先輩の心を開いた。

P-101

ヒューマノイド

ベテラン清掃員。

無口で話す相手が今まで居なかったため声帯機能が

故障気味。新人ヒューマノイドにそそのかされて

声帯機能を取り換えることにした。

RN3240と話す内に自我が出始めた。

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