現在の話2

文字数 1,133文字

もしも未来を見れるなら

 そろそろガタが来たな、と思う日々が増えた。
関節はギシギシと軋むものだからオイルをさしてみても直ぐに元通りになってしまう。なにより脳内チップの具合が悪く視界や思考にノイズがかかる回数が増えた気がする。
そろそろこのボディともお別れか。いやここで人生を終わりにしてもいいかもしれない。オートマタの自分が人生というのは可笑しいかもしれないが、元々は人間だった分そう思ってしまうのだ。
この世界に存在するのはヒューマノイド、オートマタ、ロボット、人間の四種類で、かつてはふさふさの毛をもつ動物や魚というものも生息していたらしいがそういったものはもう絶滅したらしい。また四種類の中でも人間という奴らは数が圧倒的に少ないのだが残りの三種類のメンテナンスや改造が出来る(もちろんそれらの技術をもった機械たちも居るが)唯一の存在らしい。つまりは希少なのだ。

「あ! 先輩!!」
 しんみりと今後のことを考えていればそれを吹き飛ばす大声が飛んでくる。
「居ましたよ! バーテンダー!!」
 バーテンダー、とはなんのことだったか。暫くの間、反応できなかったが二、三日前に酔っ払いながら話したことを思い出した。星降る夜に現れるバーテンダー。そのバーテンダーが出す酒はとてつもなく美味しい。そういう情報だったはずだ。
「いやあ、先輩の嘘か酔っ払いの妄想かと思ったんですけど本当に居たんですねえ」
 嘘か妄言とは酷くないか、と思ったが後輩の言葉は止まらない。
まるでいつもの自分と逆のようだ。それほど興奮したのだろうか。
「酒もめちゃくちゃ美味しかったです! 多分先輩と飲んだのは違いますけど、星のかけらを使って作ってくれたのは同じでしたよ」
 頭にノイズがかかる。
自分が飲んだのは、そう、甘露のように甘く美味しい酒だった。
「なんか先輩元気ないですね? 大丈夫ですか?」
 後輩が心配そうに覗き込んでくる。
言葉が上手く出ない。だが、止まってしまう訳にはいかない。
「大丈夫に決まってんだろ! ちょっと具合悪いだけだよ」
「え、じゃあ今日はもう上がった方が良いですよ。そろそろボディにガタが出始めそうって前に言ってましたし」
 そんな話をしただろうか、と相変わらず頭のノイズが邪魔で思考が纏まらない。
「そうするかなあ悪いな」
「いえ、たまには先輩を労らないと」
「お前~!」
「わあ、すみません!! でも本当にメンテ行ってくださいね」
 心配してるのは本当なのでという殊勝な言葉に思わず笑いそうになった。普段は茶化してくるくせにこういう時は察しが良い。
「じゃあ言葉に甘えるかな、その代わり掃除サボるなよー」
「掃除サボるのは先輩でしょ」
 ワハハと笑いあって「じゃあまた明日」と言った所で思考がぷつりと途切れた。
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登場人物紹介

RN3240(現在)

オートマタ

百年稼働している清掃の大先輩

もともとはヒューマノイドだったが、時間の経過と共に

身体を機械へと作り変えた。

嘘か本当か分からないことをよく言うので後輩には信用されていない。

Aq2oj

最近清掃場に入った新人ヒューマノイド

オートマタ先輩のいうことは八割嘘だと思っている

RN3240(過去)

ヒューマノイド

新人清掃員。滅茶苦茶よく喋る。喋らない暇はない位

よく喋る。その話術で先輩の心を開いた。

P-101

ヒューマノイド

ベテラン清掃員。

無口で話す相手が今まで居なかったため声帯機能が

故障気味。新人ヒューマノイドにそそのかされて

声帯機能を取り換えることにした。

RN3240と話す内に自我が出始めた。

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