現在の話1

文字数 921文字

③バーテンダー×偏見
 星降る夜に現れるバーテンダーが作る酒は特別なんだよ、とぷしゅうとエンジンをふかしながら言った彼はかれこれ百年は稼働しているベテランのオートマタだ。
「そんなのあるんですか?」
「俺が飲んだことあるのが証拠だろ?」
「いやいやそれが」
 いちばん胡散臭いんですって、と僕は告げ足す。
「あの頃はまだ人間の部分があったから飲めたんだって」
「へえ」
「星のかけらを空から取ってきてな、それを砕いて氷替わりにするんだよ。甘露みたいな芳醇な甘さがあってなあ、お前にも飲ませてやりたいよ」
「今日あたり天気もいいですし出会っちゃうかもですね」
 そう適当に言葉を返しながらぐび、と手元のアルコールをあおれば彼は満足そうに笑い声を上げた。

彼とは一本前の路地で別れ、フラフラと丁度いい酔い加減で歩いていたらそれはあった。いつの間にこんな店が、全然分からなかったとぐるぐると酔いも回っている脳内チップで思考を続ける。店先に立っていた人物は白熱灯と電灯の傘を頭にしており、黒いシャツにギャルソンをつけてピカピカの革靴を履いていた。そうして目をあわせながら(合っているかどうかの真偽は不明だが恐らく合っていたと思う)「いらっしゃいませ」というので思わず「はい」と答えてしまった。
「一杯飲まれますか」
「お、ねがいします」
 直感というかひらめきで、オートマタの彼が言っていた星のかけらを使うバーテンダーだと思った。
目の前のバーテンダーは小瓶から星のかけらのような小さな塊を取り出すと指先で砕きカラカラとグラスに投入していく。トロリとした朝露の雫のような色をしたジンを注ぐとみるみるうちにオレンジ色に変わっていく。
「どうぞ、ジンリッキーです」
 さっぱりとした味わいは彼が言っていたような甘露の甘さはなかったが、今まで飲んだことのないくらい美味しい酒だった。チビチビと飲みいつの間にか飲み干していたグラスを名残惜しく指で撫ぞる。
「おかわりはどうされますか」
「いやこれだけで」
「そうですか、またのご来店をお待ちしております」
 僕は一杯分の代金を置いてそこから立ち去った。
「いや、偏見なんてもつもんじゃないね」
  そうして酔っ払いながら夜空に向かってそう呟いたのだ。
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登場人物紹介

RN3240(現在)

オートマタ

百年稼働している清掃の大先輩

もともとはヒューマノイドだったが、時間の経過と共に

身体を機械へと作り変えた。

嘘か本当か分からないことをよく言うので後輩には信用されていない。

Aq2oj

最近清掃場に入った新人ヒューマノイド

オートマタ先輩のいうことは八割嘘だと思っている

RN3240(過去)

ヒューマノイド

新人清掃員。滅茶苦茶よく喋る。喋らない暇はない位

よく喋る。その話術で先輩の心を開いた。

P-101

ヒューマノイド

ベテラン清掃員。

無口で話す相手が今まで居なかったため声帯機能が

故障気味。新人ヒューマノイドにそそのかされて

声帯機能を取り換えることにした。

RN3240と話す内に自我が出始めた。

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