誕生日

文字数 1,098文字

今日は29歳の誕生日である。ぼっちだから自分一人で祝うのが当たり前である。
サイゼリアへ行って、昼食がわりにデザートを頼んだ。ティラミスにアイスクリーム、それだけで腹いっぱいだった。味気ない誕生日祝いであるが、一人じゃあ特にどこかへ遊ぶ気になれなくて、簡単に済ますことにした。大学卒業してから6年、毎年このような感じで過ごしてきた。

誕生日について、あまりいい記憶がなかった。
まだ家族と一緒に暮らしていた頃、誕生日祝いは甘口の長寿麺に煮卵を乗せて、朝食代わりにするだけだった。古くからの習しであるらしい。
誕生日ケーキに思い入れを持ったのは、小学四年生の頃だった。親が都会へ行って、親戚の所に一年預けられた。その親戚の末っ子、僕の従兄弟に当たる人は、旧正月の日の生まれで、祝日の日で誕生日パーティーを開いた。友達と親戚を沢山呼んで、祝ってもらった。十数人分の誕生日ケーキは大きく、蝋燭を吹くシーンも初めて直で見たから憧れを抱いた。余所はそうやって誕生日を祝うということを、初めて知った。
小学五年生になった頃は自分も親の居た都会へ行った。都会へ行っても、我が家は相変らず、味気ない誕生日を過ごしてきた。父親はそもそも自分の誕生日すら祝ったことがない人間であり、誕生日祝いなんて所詮金の無駄遣いであると考えていた。こうして見ると父親の悪口にしか聞こえないかもしれない。記憶を辿れれば、姉の誕生日にいつもより盛り沢山の料理を振舞ったこともあったりする。父なりの愛情表現であろう。まあ、僕が誕生日祝いに淡い期待や憧れを抱いているのはまた別のことである。
高校に上がった頃、いつかはよく覚えていないけれど、ある年の誕生日に、兄が誕生日ケーキを持ってきて、祝ってくれた。その時兄は家を出て、転々と仕事場を変えて落ち着かなかったし、滅多に連絡してこなかったから、家に帰るのも突然のことであって、知らせてくれなかった。その日はちょうど父と親戚の所へ行き、家に帰った頃は日付が変わっていた。冷蔵庫に置いてある場違いのケーキを見て、微かな感動と、それを上回る残念さを感じた。
かくして、誕生日に残念な思いを抱えながら大人になった。社会人になって、毎年の誕生日に一人分のケーキを買って、自分一人でも、形だけでも誕生日を祝うことにした。
僕にとって、どんな祝日も普通の休日と変わらず、ボロアパートに引き篭って趣味に没頭するだけだった。誕生日の日だけ、一年の中でたった一つ特別の日にするというのが悪くないと思った。とは言ったものの、一人で祝うのがはずむはずがなく、食事代わりにケーキを食べたことだけで終わった。
そういう残念な話だった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み