その1

文字数 621文字

 誓いの十年目の夏、コウジは思い出の地に立った。
 青い空に入道雲、深い緑の山々、山間を流れる静かな川、川沿いには黄金色した稲穂の絨毯等、一昔前と変わらぬ景色が目の前にある。
 まるで昨日の事のように、あの夏休みの日々が、色褪せることなく、変わらぬ風景の中に蘇る。
 コウジは、誓いを記した神社の境内に上がり、来る当てのない少女の面影を偲んだ。



 梅雨に入って間もない頃だった。
 小学四年のコウジは、仲の良いタツヤの家に泊まりにいった。夜遅くまで起きて、タツヤが冷蔵庫からこっそり持ってくるファンタグレープを飲み、サッカーゲームをして遊んだ。
「あんたら、もうおそいけん、寝んといかんよ」
 と、タツヤの母親にうながされて寝たのは、十一時過ぎだった。
 明け方、コウジはオシッコをこらえきれなくなり、放尿する夢を見て、あわてて目をさましたけれど、もうおそかった。シーツに小さな地図ができていた。
「気にせんでもええよ」
 と、タツヤの母親は言ってくれたが、コウジは最悪の気分だった。
 コウジは「このことは、絶対誰にも言わんといて」と、タツヤに懇願した。しかし、タツヤの母親が、よりによって、ワルのケンジの母親に話してしまった。
 翌日、ケンジがクラスで、オネショのことを暴露した。それからコウジは、「寝小便タレ」とからかわれるようになり、たちまち、いじめられるようになった。
 教室でも一人でいることが多くなり、やがて、親友のタツヤまでが、コウジから離れていった。


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