その6

文字数 1,111文字

 盆が過ぎると、秋の気配が濃くなる。
 川で泳ぐ小中学生達の姿もほとんど見えなくなった。
 それでもヒロミとコウジは、朝早くから日が暮れるまで、毎日二人でエビを突き続けた。
 エビ付き以外にも、川原でキャッチボールをしたり、川沿いの畑に植えてあるスイカを盗んで食べたり、川の水面に丸い平らな石を投げる水切りをして、何回跳ねるか競ったりもした。
「今から、あそこにいこう」
 夏休みも残り少なくなった日の夕方、ヒロミが神社を指差し、言った。
 もう太陽は近くの山に、半分姿を隠そうとしている。
 コウジはヒロミの後に従い、神社の境内に続く石段を上った。この神社の境内で、高校生や大人がデートすることを、コウジはうわさに聞き知っていた。
 ヒロミは社に上がる階段に腰掛け、コウジに隣に座るよううながした。
 ヒロミはいつになく無口だった。
 境内の周りには、杉や檜等の常緑樹がうっそうと繁っている。 
 二人は薄暗くなった境内で、蜩の鳴き声をしばらく聞いていた。
 コウジは、何か話そうと思うが、焦れば焦るほど、何を話していいかわからなくなった。
「もう、夏休みも終わりね」
 ヒロミの左手が、コウジの右手をそっと握りしめた。コウジはドキッとして、ヒロミを見た。   
 ヒロミは神妙な顔をして、まっすぐ前を見ている。
「ワタシ、コウジに会えて良かった。本当に……」
 いつもと違うヒロミの感じに、コウジの胸が高鳴る。
「ワタシのこと、どう思った?」
 ヒロミが、はじめてコウジの方を向き、言った。
「どうって?」
 コウジはわけがわからず、足元を見つめている。
「ワタシのこと、キライ?」
 コウジをまっすぐ見て、ヒロミが言う。
「べつに、キライじゃないけんど……」
 コウジはさっきから、喉がカラカラに乾き、心臓がドックンドックンと高鳴り、息苦しさを感じていた。
「じゃあ、スキ?」
 恥じらいのある少女の顔をヒロミが見せた。
「……」
「ねェ、どうなの?」
 この時コウジは、自分がヒロミのことを好きなのかも知れないと思った。
「スキかも……」
 コウジは真赤になった。
「ワタシ、コウジのことがスキよ」
 ヒロミは優しい目で、コウジを見つめている。
 そして突然、ヒロミがコウジの手を自分の胸に押し当てた。コウジは思わず「あっ」と叫びそうになった。少し膨らんだヒロミの胸の感触に、甘くしびれるような感じがし、頭がくらくらした。ヒロミは目をつぶり、何か小さな声でつぶやいている。しかしその声はコウジには聞こえなかった。
「コウジのこと、ずっと忘れないから」
 ヒロミはそう言うと、暗くなった境内から一目散に走り去った。ヒロミの胸の感触の残る手のひらを、しばらくコウジはただぼうっと見つめていた。

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