その4

文字数 537文字

 盆になった。
 田舎の者は、盆の間海や川で泳ぐことを嫌う。死んだ霊が里帰りをしており、生きた者をあの世に連れて行く、と言って。
 しかし、コウジは、そんなことを気にしなかった。盆の間も川に来た。ヒロミは、家の者に止められたのか、盆に入ってから泳ぎに来なかった。ヒロミがいないとエビ突きの楽しさが、半減した。
 盆踊りの前日の夕方、コウジがいつものように手長エビを突いていると、ヒロミが自転車でやってきた。
「明日の盆踊り、見にこないの。ワタシも行くから、いっしょに見ない?」
 ヒロミがエビ突きをするコウジの背中越しに、大声で言った。コウジは水中でヒロミの声がよく聞き取れなかったため、顔を上げて聞きなおした。
「明日ねぇ、いっしょに盆踊り見にいかない?」
「けんど、夜一人じゃ出れんかもしれん」
「友達といくと言って、ウソつけばいいじゃん」
 ヒロミは良いアイデアやろうと言うように、得意な顔をして見せた。
「ほんなら、これたらくるけん」
 コウジはそう言うと、またエビ突きを続けた。
 その夜コウジは、親の機嫌がよいときに、明日友達と隣町の盆踊りに行くと言った。
「道くらいけん、気いつけていったよ」
 と母親は言い、
「ちびっこ相撲でもとってこいや。賞金もらえるぞ」
 と、相撲好きな父親が言った。

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