その7

文字数 480文字

 夏休みも終わり、ヒロミとはそれきり会うことがなかった。
 ある晩の食卓で、両親の次のような会話を耳にした。
「隣町の中山さんちの孫、行方不明になっちょうらしいにゃ」
「そうらしい、中山さん弱っちょうゆうたろう」
「どこへ行ったがやろうにゃ」
「うわさでは、娘さんの再婚相手とうまくいきよらんかったみたいで、その孫んしばらく中山さんちに帰っちょったらしいがやけんど、裏山へ行くゆうて、そのままおらんなったらしい。昔やったら神隠しにおうたゆうて、なんぼか騒いだろうにね」
「神隠しって何?」
 両親の話を聞いていた姉が言った。
「昔子どもが行方不明になったら、天狗や山男にさらわれたゆうて、地区総出で山に探しに行ったらしいがよ。相当昔の話で、最近はもうそんなこと言わんなったけんどね」
 と母が言った。
 両親の話を聞きながら、話の少女がヒロミではないかとコウジは思った。
「その女の子のおじいさんって、エビ突きの名人?」
 コウジが不安そうに聞くと、
「そうそう、この辺ではエビを突かしたら中山のじいさんの右に出るもんはおらんろう」 
 と父が言った。コウジは全身が凍りつくように感じた。
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