第3話 熱帯夜が飽くまでドライヴ

文字数 968文字

 部活をしていたら夜になってしまった。
 空は晴れて星が綺麗で、うだるような熱帯夜だ。
「あー、夏になっちゃったね」
「なによいまさら」
 僕にぶっきらぼうに応えるのは同じ二年生で同じ部活の佐々山さんだ。
 同級生の男女で同じ部活だからか、僕と佐々山さんが付き合っているのでは、なんてウワサがクラスでは囁かれているが、このひとに限って、そんなことが生じるはずもなく。
 僕らは健全に同じ部員として活動している。
 今日みたいに、二人きりで学校から駅まで歩くことはあるのだけれども。
「浮かない顔ねぇ、山田くん。あおさばが空に浮いているような顔をしやがって!」
「いきなり酷い言い様だね、佐々山さん! さすがに僕、泣いちゃうよッ?」
「あら。中原中也が太宰治をいたぶるときの台詞風に言ってみただけよ」
「それは酷すぎる!」
「自動車でドライブに誘うとか出来ないのかしら、このクソ男子」
「さらりと僕のことをクソ男子って言ったね、今ッ? ていうか僕らは高校生でしょ。高校二年生」
「あら、そうだったわね。まだクソガキだったわね、山田くんは」
「女の子がクソクソ言わないの! って、自動車でドライブに連れて行ってくれる男が好きなの、佐々山さんは?」
「あらあら、こりゃまたドライヴのかかったジョークを言うわね」
「ジョークに聴こえるの、これ?」
「いっつ、ドライヴィングジョーク」
「なんだよ、ドライヴィングジョークって……」

 軽口を叩きながら、僕らはてくてくと駅までの道のりを歩いていく。

「熱帯夜だねぇ」
「金魚すくいがしたくなるわね」
「お祭り気分になるにはうちの街、さびれた感じだけどね、商店街」
「あらあら、山田くんと一緒に歩いているからこころが踊ってお祭り気分なのが、わからないのかしら」
「え?」
「にぶいわね」
「そ、そうなの?」
「もちろん、ジョークよ」
「酷いッ! ブロークンハートだよ!」
「ドライヴィングジョークで轢いてみたわ。こころも壊れるわよね」
「しかもオチが酷すぎたッ!」

「あ、駅ね」
「そうだね」
「熱帯夜、一緒に過ごすひとはいないのかしら、山田くん?」
「佐々山さんこそ」
「失礼ね」
「お互い様!」
「あたまがお祭り気分な質問をするからよ」
「ああ、なにからなにまで酷いッ!」

 と、こんな感じで、僕らの夏の部活は帰宅するまで文芸部だ。
 そう、僕らは文芸部。
 文芸部は眠らせない。

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登場人物紹介

山田:主人公。高校二年生。冴えない奴。

萌木:部長。高校三年生。厳しいのかあたまがかたいだけなのか。

佐々山:文芸部の紅一点。腐っても女子。高校二年生。

青島:不良少年ズその1。高校一年生。〈嗤うバトルクリティーク〉のひとり。

月天:不良少年ズその2。高校一年生。釘バット男。〈嗤うバトルクリティーク〉の片割れ。

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