第5話 雨上がりの夜に
文字数 794文字
夏休みの部活動、今日はめずらしく一日、雨が降っていたなか、過ごした。
窓から雨で冷やされるグラウンドを眺めながら、文芸部の部室でおれは、三年生の夏になった今までのことを、思い出していた。
「おれが高校三年の夏休みに部活をやっているとは思わなかったな……」
「なーに雨が降ってる外を眺めながらナルシズムに酔っているのよ、萌木部長」
「ああ、佐々山か」
「萌木先輩が部長になるなんて思ってもみなかったわ。そして、他の三年生は辞めちゃったもんね、部活」
「ま、そりゃそうだろ」
「そうかしら」
「学生は学業が本分だろうよ」
「まるで部長は受験勉強をしていない、って風ね」
「受験勉強だけの夏になる、とおれだって思っていたよ」
「受験勉強だけの男って、つまらない響きだわ」
「いや、大学デビューでもするんだろうさ、そういう奴は、ね」
「萌木部長は今後のプラン、考えているのかしら。大学に入ってからの」
「大学に入れるかも謎だが、な。そもそも、親類のところに居候して学費まで出してもらっている身だ。現時点でいろいろ悩んでいないこともない」
「煮え切らない言い方ね」
雨が止んだ、と思った。
思った、というのは、もう夜だからだ。
あたりは真っ暗だ。
おれは窓を開ける。
湿度の高い夏の空気が室内に入ってくる。
佐々山は、こんなことを言う。
「雨が降って地面が固まるか、っていうと、部長の今後については適用出来ないわね。でも、部長がよければ、一緒に歩いていったっていいわ、わたしは」
「佐々山?」
「いえ、一緒に歩いて行きましょう」
「それは……」
「勘違いはよくないわよ? もう警備員の見回りの時間だから、歩いて駅まで行きましょう。一緒にコンビニへ行きましょう」
「驚かすなよ」
「驚かしてないわよ。雨上がりのこんな夜は、誰かと一緒に歩きたくなるものでしょう?」
おれはうつむいて、笑う。
「そうだな」
そして、おれたちは帰りの準備を始めた。
窓から雨で冷やされるグラウンドを眺めながら、文芸部の部室でおれは、三年生の夏になった今までのことを、思い出していた。
「おれが高校三年の夏休みに部活をやっているとは思わなかったな……」
「なーに雨が降ってる外を眺めながらナルシズムに酔っているのよ、萌木部長」
「ああ、佐々山か」
「萌木先輩が部長になるなんて思ってもみなかったわ。そして、他の三年生は辞めちゃったもんね、部活」
「ま、そりゃそうだろ」
「そうかしら」
「学生は学業が本分だろうよ」
「まるで部長は受験勉強をしていない、って風ね」
「受験勉強だけの夏になる、とおれだって思っていたよ」
「受験勉強だけの男って、つまらない響きだわ」
「いや、大学デビューでもするんだろうさ、そういう奴は、ね」
「萌木部長は今後のプラン、考えているのかしら。大学に入ってからの」
「大学に入れるかも謎だが、な。そもそも、親類のところに居候して学費まで出してもらっている身だ。現時点でいろいろ悩んでいないこともない」
「煮え切らない言い方ね」
雨が止んだ、と思った。
思った、というのは、もう夜だからだ。
あたりは真っ暗だ。
おれは窓を開ける。
湿度の高い夏の空気が室内に入ってくる。
佐々山は、こんなことを言う。
「雨が降って地面が固まるか、っていうと、部長の今後については適用出来ないわね。でも、部長がよければ、一緒に歩いていったっていいわ、わたしは」
「佐々山?」
「いえ、一緒に歩いて行きましょう」
「それは……」
「勘違いはよくないわよ? もう警備員の見回りの時間だから、歩いて駅まで行きましょう。一緒にコンビニへ行きましょう」
「驚かすなよ」
「驚かしてないわよ。雨上がりのこんな夜は、誰かと一緒に歩きたくなるものでしょう?」
おれはうつむいて、笑う。
「そうだな」
そして、おれたちは帰りの準備を始めた。