第4話

文字数 2,155文字

 三年後。神保はまたしても新たなロボットを作り上げた。
 呼び出された古峰は、渋々研究所へ出向き、ご無沙汰していますと挨拶を交わす。JF03号の事件後に古峰は研究所を去っていたので、まさか自分に連絡が来るとは思っていなかった。
 三年ぶりの再会だが、神保は懐かしさを滲ませることもなく、自信ありげに新型ロボットを披露した。
「見ての通り、今回はJF03号の反省を踏まえ、コンパクト重視の設計にした。これこそが究極の万能ロボット、JF04号だ」
 博士の言葉通り、新型ロボットは、やはり人型の二足歩行タイプだった。
 が、体長は十センチほどの手のひらサイズで、超合金ロボット感が増したのは否めない。03号とのあまりの違いに、吹き出しそうになった。
「ちょっとコンパクト過ぎやしませんか。それに、これのどこが万能なんです?」
 至極当然といった感じで意見を述べたが、神保は意に介さなかったようで、口をへの字に曲げている。おそらくはもっと称賛の声が聴きたかったに違いない。
「見て判らんのか? これだけのサイズであれば、バッテリーも小さくて済むし、03号のように移動にも困らん。何より開発コストも抑えられるしな」
「だから、どこが万能なのかを訊いているんです。このままでは益々おもちゃにしか見えません」
 おもむろにポケットから煙草を出した神保は、ゆっくり火をつけると、もったいつけるように紫煙を吐き出してから説明に入った。
「04号は、人間には出来ないような細かな作業が出来る。例えば……」
 そう言って神保はスマホをタッチする。どうやら操縦方法は03号と変わりはないようだ。甲高いモーター音が鳴り響くと、04号は直径一センチ角の紙を丁寧に折りだし、ものの一分で見事な折り鶴を完成させた。
「ほら見てみい。素晴らしいだろう。とても人間には真似できない」
 確かにすごいが、そんなからくり人形のようなロボットを作ったところで、いったい何の役に立つというのだろう。これじゃあ万博のパビリオンやデパートのショーのピエロといっても差し支えない。
 唖然として口がきけないのを、感動のあまり声が出せないと勘違いしたのか、満足げな笑みを滲ませた神保は、「こんなの朝飯前だ。次のはもっとすごいぞ」と、次の見世物……いやパフォーマンスに移った。
 ポケットから米粒を取り出したかと思うと、神保はそれを04号に握らせる。古峰には何となく想像がついたが、敢えて黙っておくことにした。すると、やはりというかなんというか、04号は米粒に何かを書き出した。
「まさかお経とか書いているんですか?」
 しかし、神保は首を振ると虫メガネを取り、書き終えたばかりの米粒と一緒に渡してきた。訝しがりながらそれを覗くと、そこにはワープロのようなハッキリとした文字でこう書かれてあった。
 『どうだ古峰くん。参っただろう』
「博士。こんなものを書かせるためにこのロボットを作ったんですか? 03号の時の災害派遣とかの志はどうなったんです。これでは何の役にも立ちませんよ!」力が入り、つい大声になってしまった。それでも神保はまだとっておきの機能があると言って譲らない。
「まあまあ、そう力むな。これを見てもまだそんな事が言えるのかな?」と、したり顔の神保は、これぞ真打ちとばかりにスマホを振りかざす。すると04号の腕がするすると伸びていくではないか。
「……博士。これは一体?」
「まあ見ておれ」
 スライド式に伸びる腕は十センチ程で止まると、台に乗せてあった十円玉を取り、再び元の長さまで縮んでいく。昔あったマジックハンドのようだった。
「これで自動販売機の下に落ちた硬貨も難なく回収できる。これほど便利なロボットはないだろう。このほかにも、針に糸を通したり、背中の痒い所を掻いてくれたり――これ1台あれば何でもござれということだよ、はっはっは」
 腕を組みながら、その機能に満足げな神保は至福の笑みを浮かべている。古峰は恐る恐るといった感じで、当初から抱いていた疑問をぶつけてみた。
「……まさかこれを販売する気ですか?」
「当然だとも。これまでの開発費を回収しなければならないからな」
「いったい、いくらで?」
 少し間があき、神保は奥歯を鳴らしながら、ゆっくりと指を3本立てた。
「3千円ですか?」
 だが、首を縦には振らない。
「じゃあ、3万円」
 それでもNOとばかりに首を振る。
「まさか……」
「30万だ。今回はスポンサーがつかなかったから、開発費もバカにならん。それくらいないと利益が出ないんだよ」
 たかが折り鶴や小銭を拾うために30万も出す人がいるとはとても思えない。露骨に顔をしかめると、神保は開き直りともいえる言葉を発した。
「本当は40万にしたいところを30万に抑えたんだ。目標は10万体。薄利多売だから、それくらいは売らないとな。工場に発注も済ませてある。それじゃあ、後はよろしく頼むよ古峰くん」
 まずはネットショップに出品してくれ、と肩をポンと叩き、神保博士は戸口から消えた。
 こんなしょうもないガラクタを作っておいて、あとは丸投げかよ。
 それでも言われた通り、JF04号の写真を撮ると、渋々パソコンを立ち上げ、ネットショップのサイトを開く。古峰はそこにJF04号の画像と詳細、それに価格を載せた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み