第7話

文字数 1,104文字

 独り暮らしのアパートに連れて帰ると、さっそくJF05号……いや、エリカのスイッチを入れた。
 『初めまして。私は“じゃあ、エリカちゃんで”よ。でも、これは仮の名前だから、私にふさわしい、新しい名前を付けてね』
 どうやら起動するたびにこうなるらしい。だが、神保の話では、今後、リセットしない限り、会話の内容はメモリーに蓄積されるらしく、たとえ充電が切れても大丈夫なのだそうだ。改めて『エリカ』と言い直すと、どうやらうまくインプットされたらしく、彼女は自分の名をエリカだと認識した。
「エリカちゃんは何ができるの?」
 『もちろん何でもよ。なにせ万能ロボットですからね』
 頼もしいことを言ってくれる。きっと家事なんかは難なくこなすに違いない。博士はいくらで売り出す気なのかは知らないが、きっと大ヒット間違いなしと確信した。
「じゃあ、料理なんか出来る?」
 『もちろんよ。何を作りましょうか?』
「じゃあ、肉じゃが。材料は冷蔵庫にあるから、今、準備するね」
 するとエリカの声のトーンが急に下がった。
 『申し訳ありません。肉じゃがは、ちょっと……』
「え? 出来ないの」
 『ええ。なにせロボットなものですから、火を使った料理は苦手なんです。熱でショートするかもしれませんので』
 何だか雲行きが怪しくなってきた。確かにAIは繊細だろうから納得が出来なくもないが、火が使えないのであれば、レパートリーはそれほど多くは無いのかもしれない。
「じゃあ、サラダならイケるよね」
 『任せてください』
 台所に立ったエリカは、まな板にキャベツを乗せると、流しに立ててある包丁を握った。斜め後ろに立ち、期待を込めながら様子を眺めていると、彼女は包丁を振りかざし、キャベツに刃を入れる。ところが勢い余ってまな板まで切ってしまった。
「駄目じゃないか。もっと軽く扱わないと」
 『申し訳ありません。パワーの調整が上手くできないんです』
「だったら洗濯を頼んでもいいかな。これなら火も使わないし、力も入れなくて済むだろう?」
 『洗濯は出来かねます。マイクロチップは水にも弱いので』
「だったら掃除は?」
 『ホコリも苦手で……』
「買い物は?」
 『まだそのプログラムはインプットされていません。いずれバージョンアップで対応できると思いますので、しばらくお待ちください』
 その後もいくつかできそうなことを頼んでみたが、結局何もできないことが判明し、落胆してしまう。
 正直、これほど使えないとは思いもせず、万能どころか、ただの会話ロボットだ。
 しかも、音声認識がいまいちなのか、会話すら成り立たす、話がどうしてもかみ合わない。スマートスピーカーの方が、まだマシだった。
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