あなたに奇麗と言われたい
文字数 1,759文字
あれは霧雨の降る深夜だった。
普通の人が言うところの午前様、私達の言うところの丑三つ刻。
傘も刺さずに足早に歩くあなたを私が見つけ、私は嬉々としてその背後に立った。
あなたは驚いた様に振り返ったわ。
濡れた前髪の雫がその勢いでキラキラ弾けた。
恐怖に慄いているかと思いきや、苛つきを隠さない凄く迷惑そうな顔だったからよく覚えてる。
「……ねぇ……私、奇麗?」
そう告げたの。
だってそれを言う為にあなたの背後に立ったのだから。
あぁ、何て答えてくれるかしら?!
私は胸が高まり、じっとりとあなたを見つめたわ。
だと言うのに、あなたは言ったわ。
「奇麗とはなんだ?まず、その定義を答えろ。」
「?!?!」
少しだけ呆気にとられたわ。
今までも妙な事を言ってくる人はいたけれど、悪意がある訳でも恐怖でパニックになっている訳でもなく、ここまで冷徹に私に言い放ったのはあなたが初めてだったんだもの。
でもね?
私だって、そんな返答で動揺するほどうぶじゃないのよ?
この道を極めるほど、長い時間、こうして誰かと質疑を交わしているんだもの。
私は少しだけ笑って答えたわ。
「美人かどうかって事よ?」
「なら、美人の定義を教えろ。まずそれが定まらなければ返答のしようがない。」
「…………………………。」
ちょっとイラッとしたわ。
美人かどうかを聞いてると教えたのに、今度は美人の定義を教えろと言う。
私の苛つきが伝わったのか、あなたはふぅ、と吐息を吐いた。
濡れた髪を掻き上げる仕草は、長年、人間観察に明け暮れた私から見てもなかなかイイ男に見えたわ。
「……いいか?これは極端な例だが、首長族の女性は首が長ければ長いほど美人だと言われている。よってその定義から行けば、君の首の長さは平均的である事から、平均的な美しさだと言える。」
「……本当に極端ね。」
「かつてヨーロッパ諸国では、ウエストが細ければ細いほど美しいとされた。また日本などのアジア系人種のストレートな黒髪を美しいと言う者もいれば、ウェーブしたプラチナブロンドが美しいと言う人もいる。褐色の肌が何より美しいと思う人、豊満な曲線美よりもスラリと伸びた背丈や手足を美しいと言う人、様々な美しさであり「奇麗」とされる定義がある。」
「……確かに。」
「それで、君の「奇麗」であり、「美人」の定義は何なんだ?それがわからなければ答えようがないだろう?」
私は目から鱗が落ちたようにあなたを見つめたわ。
そう、「奇麗」の答えなんて、千差万別、人それぞれたくさんの答えがある。
これが「奇麗」の絶対的な答えだなんてものはないのだ。
あなたは私を怖がっている訳でも、悪意を持ってそんな事を言っているんじゃない。
ただ真剣に私の質問に答えようとしてくれている。
私の「奇麗」を理解した上で、その答えを出そうとしてくれている。
霧雨の中、暗い路地に頼りなく光る街灯の下。
真剣な眼差しで私を見つめるあなたと目が合ったの。
……奇麗だと思ったわ。
霧雨が幻想的で、淡く輝く街灯の光に照らされ、濡れた髪から雫を滴らせながら私に真剣に向き合ってくれるあなたを、私は奇麗だと思ったの……。
その瞬間、私の中の定義が崩れてしまったのよ。
「奇麗」って何だろう?
私はこの人を奇麗だと感じている。
何をもって「私、奇麗?」と聞いているのだろう?
この人に感じている「奇麗」は私が訪ねてきた「奇麗」と同じものなのだろうか?!
「~~~~~~~っ!!」
私は真っ赤になった。
どうしてだかわからないけれど、むず痒くて仕方がなかった。
あなたの真剣な眼差しは、私には眩しすぎたのだ。
「…………おい?」
「つっ!次会う時までに考えておくわっ!!」
私はそう言って走り去った。
だってこんなの反則だ。
私が「奇麗」か聞いたのに、あなたが「奇麗」だなんて!!
不思議とその事に醜い嫉妬心は生まれなかった。
ただただ、「奇麗」って何だろうと、何をもって「奇麗」と聞いているんだろうかと。
……どうしたら、あなたに「奇麗」と言ってもらえるだろう……そんな事ばかり考えていた。
次、会う時、ちゃんと答えられるかしら?私?
でもきっと、あなたはまた、私の答えに質問を投げかけてくるだろう。
だからお互い、納得が行くまでとことん話し合えばいい。
そして最後に、あなたは言ってくれるかしら??
「奇麗」だよ、って……。
普通の人が言うところの午前様、私達の言うところの丑三つ刻。
傘も刺さずに足早に歩くあなたを私が見つけ、私は嬉々としてその背後に立った。
あなたは驚いた様に振り返ったわ。
濡れた前髪の雫がその勢いでキラキラ弾けた。
恐怖に慄いているかと思いきや、苛つきを隠さない凄く迷惑そうな顔だったからよく覚えてる。
「……ねぇ……私、奇麗?」
そう告げたの。
だってそれを言う為にあなたの背後に立ったのだから。
あぁ、何て答えてくれるかしら?!
私は胸が高まり、じっとりとあなたを見つめたわ。
だと言うのに、あなたは言ったわ。
「奇麗とはなんだ?まず、その定義を答えろ。」
「?!?!」
少しだけ呆気にとられたわ。
今までも妙な事を言ってくる人はいたけれど、悪意がある訳でも恐怖でパニックになっている訳でもなく、ここまで冷徹に私に言い放ったのはあなたが初めてだったんだもの。
でもね?
私だって、そんな返答で動揺するほどうぶじゃないのよ?
この道を極めるほど、長い時間、こうして誰かと質疑を交わしているんだもの。
私は少しだけ笑って答えたわ。
「美人かどうかって事よ?」
「なら、美人の定義を教えろ。まずそれが定まらなければ返答のしようがない。」
「…………………………。」
ちょっとイラッとしたわ。
美人かどうかを聞いてると教えたのに、今度は美人の定義を教えろと言う。
私の苛つきが伝わったのか、あなたはふぅ、と吐息を吐いた。
濡れた髪を掻き上げる仕草は、長年、人間観察に明け暮れた私から見てもなかなかイイ男に見えたわ。
「……いいか?これは極端な例だが、首長族の女性は首が長ければ長いほど美人だと言われている。よってその定義から行けば、君の首の長さは平均的である事から、平均的な美しさだと言える。」
「……本当に極端ね。」
「かつてヨーロッパ諸国では、ウエストが細ければ細いほど美しいとされた。また日本などのアジア系人種のストレートな黒髪を美しいと言う者もいれば、ウェーブしたプラチナブロンドが美しいと言う人もいる。褐色の肌が何より美しいと思う人、豊満な曲線美よりもスラリと伸びた背丈や手足を美しいと言う人、様々な美しさであり「奇麗」とされる定義がある。」
「……確かに。」
「それで、君の「奇麗」であり、「美人」の定義は何なんだ?それがわからなければ答えようがないだろう?」
私は目から鱗が落ちたようにあなたを見つめたわ。
そう、「奇麗」の答えなんて、千差万別、人それぞれたくさんの答えがある。
これが「奇麗」の絶対的な答えだなんてものはないのだ。
あなたは私を怖がっている訳でも、悪意を持ってそんな事を言っているんじゃない。
ただ真剣に私の質問に答えようとしてくれている。
私の「奇麗」を理解した上で、その答えを出そうとしてくれている。
霧雨の中、暗い路地に頼りなく光る街灯の下。
真剣な眼差しで私を見つめるあなたと目が合ったの。
……奇麗だと思ったわ。
霧雨が幻想的で、淡く輝く街灯の光に照らされ、濡れた髪から雫を滴らせながら私に真剣に向き合ってくれるあなたを、私は奇麗だと思ったの……。
その瞬間、私の中の定義が崩れてしまったのよ。
「奇麗」って何だろう?
私はこの人を奇麗だと感じている。
何をもって「私、奇麗?」と聞いているのだろう?
この人に感じている「奇麗」は私が訪ねてきた「奇麗」と同じものなのだろうか?!
「~~~~~~~っ!!」
私は真っ赤になった。
どうしてだかわからないけれど、むず痒くて仕方がなかった。
あなたの真剣な眼差しは、私には眩しすぎたのだ。
「…………おい?」
「つっ!次会う時までに考えておくわっ!!」
私はそう言って走り去った。
だってこんなの反則だ。
私が「奇麗」か聞いたのに、あなたが「奇麗」だなんて!!
不思議とその事に醜い嫉妬心は生まれなかった。
ただただ、「奇麗」って何だろうと、何をもって「奇麗」と聞いているんだろうかと。
……どうしたら、あなたに「奇麗」と言ってもらえるだろう……そんな事ばかり考えていた。
次、会う時、ちゃんと答えられるかしら?私?
でもきっと、あなたはまた、私の答えに質問を投げかけてくるだろう。
だからお互い、納得が行くまでとことん話し合えばいい。
そして最後に、あなたは言ってくれるかしら??
「奇麗」だよ、って……。