第26話 大胆過ぎる有希の申し出をあわてて止める伸

文字数 692文字

 有希は、涙声になる。
 今の僕は、こんなひどい顔になって、セックスだって出来ない。今の僕に、伸くんに焼きもちを焼いてもらう価値なんかない。伸くんに優しくしてもらう価値なんか……

 ユウ。それは違うよ。俺はずっと、ユウのためにそばにいて、ユウのために何かしたいって思っていた。


 でも、それは思い上がりで、ユウのそばにいるのも、何かしたいのも、全部自分がそうしたいからしているだけで、ただのエゴだって気づいたんだ。それで今、自分にがっかりして動揺したんだよ

 伸くん……
 顔を上げた有希の目から、ぽろぽろと涙がこぼれた。

 傷とか、セックスがどうとか関係ない。もしも、それで引け目を感じているなら、そんな必要はまったくないよ。


 何度も言うけど、傷があっても、ユウはとてもきれいだし、セックスしなくても、ユウのことが大好きだし、今だって、ユウのことを誰にも渡したくないと思っている

 あぁ……
 伸は、本格的に泣き出した有希の肩を抱きしめる。しばらくの間、泣き続けていた有希が、やがてぽつりと言った。
 もしも、伸くんがしたいなら
 え?

 顔をのぞき込むと、有希は真っ赤に泣き腫らした目でこちらを見て言った。


 僕の体は反応しそうにないけど、伸くんがそれでもいいなら、してもいいよ
 ユウ。俺はそこまでスケベじゃないよ。自分だけ気持ちよくなっても意味がない
 なんなら手で、とか
 ユウ
 それとも、く
 ユウ!
 伸はあわてて大きな声でさえぎった。
 それ以上言わなくていい

 でも……

 ユウはそんなこと考えなくていい。ユウはただ、そこにいてくれるだけでいいんだよ
 有希はまだ、不満そうな顔で伸を見ている。顔が熱い……。
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