八、裏パラメーター「タイプ」を見抜こう
文字数 2,575文字
「ていうのはさ、ボク、前に一度プレイしたわけじゃん? お金リソースも潤沢で、毎日ご馳走食って、セックスしまくって、知恵を讃えられて、巨大建造物もガンガン作ったわけよ。今までの話だとさ、相当スコア稼いでてもおかしくないのに、ランキングは余裕で圏外じゃん? 実際、あんまり幸福?っていうの感じてなかったし」
くっ……! やっぱりこの上司(クソ)、意外と鋭い!
過去の小ヒットにあぐらをかくだけの無益な害虫、会社の寄生虫、若者の芽を摘む邪悪な老害と思っていたが、ちょっと認識を改めなければいけないのかもしれない……。
---------------------------
以上が本作をプレイする上での基礎的な情報となります。
ですが、同じ快楽(セックスや美食など)を味わい、同じトロフィーを入手したとしても、そこから得られる幸福点はプレイヤーごとに異なります。
一つ一つの快楽やトロフィーには入手できる幸福点が設定されていますが、実際は、各プレイヤーの隠しパラメーター「タイプ」に従って、幸福点に倍率が掛かっているのです。
---------------------------
---------------------------
また、「慈善家」タイプのプレイヤーであれば、「貧乏人が苦しむ姿を見る」などのイベントで幸福点を入手することはありませんが、「汚い金持ち」タイプの人間なら、貧乏人が苦しむだけで幸福点を得られる上に、それに高い倍率を掛けることができます。
---------------------------
---------------------------
ですので、プレイヤーは自分の「タイプ」を見極めて、高い倍率の掛かるイベントやトロフィーを狙って行動するとスコアアタックの上では有利となります。
たとえば、「ロマンチスト」タイプや「芸術家」タイプのプレイヤーなら、海外旅行でブルージュやフィレンツェに行って芸術的遺産に触れることで高倍率の掛かった幸福点を得られます。一方で、「汚い金持ち」タイプの場合は、最貧困地域に行って貧乏人を嘲笑いつつ、一銭も金を落とさず帰国することで高い幸福点を稼ぎ出すことができるのです。
---------------------------
---------------------------
「タイプ」は基本的には自分で選択することはできず、周囲の環境により決定します。家族や地域、学校、職場などの所属する集団によりタイプが変化することもあります。
タイプの自力変更は困難ですが、方法はあります。特定の宗教団体に加入し、「お金」リソースと「寿命」リソースを消費して、トロフィー「信仰」を入手することで、狙ってタイプを変化させることができます。
また、哲学や自己啓発セミナーなどでも同様の効果を得ることができます。
---------------------------
「プレイしてた時はさ、なんか何やっても全然スカッとしないし、空しいし、これは救い難いクソゲーだと思ってたけど、なるほど、そういうカラクリを聞いたら納得できちゃうな〜。ボクはそういうのに向いたタイプじゃなかったわけだ」
ともかく、「タイプ」は『人生』をプレイする上での影の重要パラメーターなのだ。
これはアウストラロピテクスでクローズドベータテストをやってた時に急遽付け加えられた要素で、というのは、同じイベントで同じ幸福点が一律に全プレイヤーに入ると、すぐに攻略法が固定化されてしまい、ゲームの寿命が甚だ短くなってしまったのだ。
プレイヤーごとに隠しパラメーターのタイプを設定することで、同じことをやっても人によって獲得幸福点が異なるようになり、プレイヤー間で、あれがいい、これがいい、と議論が巻き起こるようになり、プレイングが急速に多様化したのだ。
また、タイプの存在に薄っすら気付いた勘の良いプレイヤーたちが、タイプを意識的に変更することを狙い始めて、それが「哲学」だの「宗教」だのといった形を取り始めた。ゲームに多様性が生まれ、プレイヤー間での議論も盛り上がり、ここまでは大成功だったのだ。ここまでは……。
そう……あいつが出てくるまでは。
俺は憎しみのこもった視線で、ハイスコア暫定一位に君臨する、あのクソッタレの名を睨み付けた。
タイプの存在を見抜いたのみならず、卑劣な方法でスコアを荒稼ぎし、俺のゲームを根底から破壊しかけた極悪プレイヤーの名を……。
「ウンウン。説明書は、まあ、大体こんなもんでいいんじゃないかな? これでずっと分かりやすくなったと思うよ。キミも、まあ、色々思うところはあるだろうけどさ。これを適切な形で公開してあげれば、プレイヤーもずっと遊びやすくなって、サービスも延命できるんじゃないかね」
(続く)