八、裏パラメーター「タイプ」を見抜こう

文字数 2,575文字

「……と、いうのが、まあ大体のトコっすねー」
「…………」
「……これでもうイイっすかね?」
「あのさあ」
「はい?」
「なーーーんか、おかしい気がするんだよね。いや、やっぱり明らかにおかしいよ」
「…………」
「ていうのはさ、ボク、前に一度プレイしたわけじゃん? お金リソースも潤沢で、毎日ご馳走食って、セックスしまくって、知恵を讃えられて、巨大建造物もガンガン作ったわけよ。今までの話だとさ、相当スコア稼いでてもおかしくないのに、ランキングは余裕で圏外じゃん? 実際、あんまり幸福?っていうの感じてなかったし」
「そ、それは、その……」
「キミさあ、まだなんか説明書に書いてないことあるでしょ」
くっ……! やっぱりこの上司(クソ)、意外と鋭い!
過去の小ヒットにあぐらをかくだけの無益な害虫、会社の寄生虫、若者の芽を摘む邪悪な老害と思っていたが、ちょっと認識を改めなければいけないのかもしれない……。
し、しかし……あれを書けというのか! あれはもう説明書というか攻略書の内容だと思うのだが。ええっ、マジで? マジでここまで書けっての??
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以上が本作をプレイする上での基礎的な情報となります。
ですが、同じ快楽(セックスや美食など)を味わい、同じトロフィーを入手したとしても、そこから得られる幸福点はプレイヤーごとに異なります。
一つ一つの快楽やトロフィーには入手できる幸福点が設定されていますが、実際は、各プレイヤーの隠しパラメーター「タイプ」に従って、幸福点に倍率が掛かっているのです。

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例えば、「汚い金持ち」タイプであれば、トロフィー「年収1億円突破」などで得られる幸福点に3.0倍などの高い倍率が掛かります。「汚い金持ち」タイプのプレイヤーは、普通のプレイヤーが年収1億を突破した時の3倍の幸福を感じるのです。
また、「慈善家」タイプのプレイヤーであれば、「貧乏人が苦しむ姿を見る」などのイベントで幸福点を入手することはありませんが、「汚い金持ち」タイプの人間なら、貧乏人が苦しむだけで幸福点を得られる上に、それに高い倍率を掛けることができます。

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ですので、プレイヤーは自分の「タイプ」を見極めて、高い倍率の掛かるイベントやトロフィーを狙って行動するとスコアアタックの上では有利となります。
たとえば、「ロマンチスト」タイプや「芸術家」タイプのプレイヤーなら、海外旅行でブルージュやフィレンツェに行って芸術的遺産に触れることで高倍率の掛かった幸福点を得られます。一方で、「汚い金持ち」タイプの場合は、最貧困地域に行って貧乏人を嘲笑いつつ、一銭も金を落とさず帰国することで高い幸福点を稼ぎ出すことができるのです。

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「タイプ」は基本的には自分で選択することはできず、周囲の環境により決定します。家族や地域、学校、職場などの所属する集団によりタイプが変化することもあります。
タイプの自力変更は困難ですが、方法はあります。特定の宗教団体に加入し、「お金」リソースと「寿命」リソースを消費して、トロフィー「信仰」を入手することで、狙ってタイプを変化させることができます。
また、哲学や自己啓発セミナーなどでも同様の効果を得ることができます。

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「はぁあ……なるほどねぇ……」
上司が口をぽかんと開けてアホみたいな感想を漏らした。
「プレイしてた時はさ、なんか何やっても全然スカッとしないし、空しいし、これは救い難いクソゲーだと思ってたけど、なるほど、そういうカラクリを聞いたら納得できちゃうな〜。ボクはそういうのに向いたタイプじゃなかったわけだ」
「そ、そうですよ〜。部長には部長の知性に見合った、もっと高尚な幸福点の稼ぎ方があったと思いますよ!」
部長のタイプは確か「ペシミスト」だったな。何をやっても幸福点が下がるダメダメなタイプだったはずだ。初期ボーナスポイントが高いプレイヤーがなりやすいタイプだ。チートなんかするからだ。
ともかく、「タイプ」は『人生』をプレイする上での影の重要パラメーターなのだ。
これはアウストラロピテクスでクローズドベータテストをやってた時に急遽付け加えられた要素で、というのは、同じイベントで同じ幸福点が一律に全プレイヤーに入ると、すぐに攻略法が固定化されてしまい、ゲームの寿命が甚だ短くなってしまったのだ。
プレイヤーごとに隠しパラメーターのタイプを設定することで、同じことをやっても人によって獲得幸福点が異なるようになり、プレイヤー間で、あれがいい、これがいい、と議論が巻き起こるようになり、プレイングが急速に多様化したのだ。
また、タイプの存在に薄っすら気付いた勘の良いプレイヤーたちが、タイプを意識的に変更することを狙い始めて、それが「哲学」だの「宗教」だのといった形を取り始めた。ゲームに多様性が生まれ、プレイヤー間での議論も盛り上がり、ここまでは大成功だったのだ。ここまでは……。
そう……あいつが出てくるまでは。

俺は憎しみのこもった視線で、ハイスコア暫定一位に君臨する、あのクソッタレの名を睨み付けた。
タイプの存在を見抜いたのみならず、卑劣な方法でスコアを荒稼ぎし、俺のゲームを根底から破壊しかけた極悪プレイヤーの名を……。
「ウンウン。説明書は、まあ、大体こんなもんでいいんじゃないかな? これでずっと分かりやすくなったと思うよ。キミも、まあ、色々思うところはあるだろうけどさ。これを適切な形で公開してあげれば、プレイヤーもずっと遊びやすくなって、サービスも延命できるんじゃないかね」
「待って下さい、部長」
「?」
「あともうちょっとだけ……書き足しますよ。みんなが分かりやすいようにね」
もうここまで書いちまったんだ。ええい、ならもう俺だって書きたいことを全部書いてやる! 今後二度とあんなクソチート野郎が現れないようにな!!
(続く)
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登場人物紹介

■神A


若手のゲームプロデューサー。これまで温めてきた持論のゲーム理論に基づき、圧倒的自由度をウリとするMMORPG『人生』を開発した。しかしその自由度の高さが災いし、プレイヤーたちから「よく分からん!」と苦情や嘆きが殺到。上司に睨まれる。

■神B


神Aの上司で部長。百三十億年前に『銀河』というゲームを開発した。星を生み出しては爆発させて銀河系を育てるだけのシンプルなクリックゲームにも関わらず、多くのプレイヤーを熱狂させた(神Aは「他愛のないゲーム」と見下しているが実は結構なヒット作)。

■ヨブ


運営に対して長文の苦情を送ったことで歴史的に有名な人物。そのあまりに執拗な苦情っぷりに、当時、神Aがブチギレて、ゲームプロデューサーの身でありながらログインし、ヨブに向かってShoutコマンドで怒鳴り散らした。ヨブはビビって苦情を取り下げた。本編には特に出てこないが面白かったから書いた。

■説明書


神Bの監視の下、神Aがいやいや書いている説明書。

■ガブリエル


神Aの部下。主に告知担当。

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