四、上級職を目指そう

文字数 3,432文字

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プレイヤーが最初から所持しているスキルは「ラーニングLv1」「コミュニケーションLv1」のみです。
これらは新スキルを入手するための基礎スキルです。
プレイヤーは「寿命」と「お金」のリソースを消費することにより新スキルを入手できます。
「クラス(職業)」の多くは特定のスキルを要求してくるので、あなたの目指すクラスに合わせて、計画的にスキルを取得しましょう。

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クラスに就くことで、「寿命」→「お金」のリソース変換が可能になります。
さらに特定のクラスでは、このリソース変換行為を通じて新スキルを入手できます。
できるだけ変換効率の高いクラスを目指すのが基本ですが、最初は変換効率よりも新スキル入手に期待してクラスを選び、必要なスキルを入手してから、より変換効率の高いクラスへとクラスチェンジするプレイングも可能です。

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また特定のクラスでは名声ポイントを得ることもできます。
この名声ポイントが溜まると、「政治家」などの特殊なクラスにクラスチェンジできるようになります。

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「あのさあ、キミ、ダメだよ、これさあ」
「何がですか」
俺は苛立ちを隠さず聞き返した。きっとまたどうせクソみたいなことを言ってくるに違いないのだ。
「キミ、これはチュートリアルが必要だよ」
ほら、クソみたいなことを言ってきた!
「部長! 繰り返しますが、本作の肝は圧倒的自由度です! 説明書だって作りたくないのに、チュートリアルだなんて……」
「スキルってさ、いくつあんの?」
「えっと…………コミュニケーション、ラーニングから始まり、料理、語学、戦闘、政治、商業、天文、球技、ゲーム、音楽、数学、取引、作文、薬学、図書館技能、ダンス、デザイン、絵画、裁縫、農学…………えーっと、ま、無数ですね。それらからさらにスキルツリーが伸びてて下位分類のスキルがあるので……ウン、無数ですね」
「いや、そんなにたくさんあってもさあ。選べるわけないでしょ。そもそもこのゲーム、プレイ始めたての頃はラーニングもコミュニケーションもレベルが低いんだから。ヘンテコなスキル振りしたら、いきなり詰んじゃうじゃん。ある程度、チュートリアルで導いてあげないとムリでしょ、これ」
「部長、お言葉ですが、実質的なチュートリアルはプレイヤーたちが自発的に生み出してるんですよ」
「えっ、そうなの……?」
「はい。例えば、現代の日本サーバーなどでは義務教育と呼ばれるチュートリアル期間が15歳まで存在し、ある程度まで画一的なスキル取得を行うよう、プレイヤー同士で取り決めてるんです。だから、あんまりにもピーキーなスキル振りしていきなり詰むことはそんなにないんですよ。そんなに」
「ふうん。でも15年分の「寿命」リソースの使い道が限定されるだなんて、自由度が低いよね。プレイヤーの苦情でも『学校がつまらない』ってたくさん来てるし」
くっ……。このクソ上司、なんで口を開くたびにクソみたいな猛言を垂れ流すのか。チュートリアルを作れだの、チュートリアルが長すぎて自由度が低いだの、言いたい放題だ。
…………だが、実際この点に関してはプレイヤーたちはよくやっていると思う。
ちょっと自由度高すぎたかな、と俺も正直思わんでもなかったが、プレイヤーたちもこの「自由度高すぎ問題」には早くから気付いていたのだ。なので古代社会の時代から、スパルタなどでは自主的チュートリアルを実施して、適切な基本スキルを新規プレイヤーに取得させてきたのだ。
もっとも、その効果も時代と場所に寄ったわけだが、昨今の義務教育はなかなか効果的に機能している。例えば日本サーバーのチュートリアルでは、新規プレイヤーの99%に「コミュニケーションLv2(読み書き)」を習得させることに成功している。サービス開始からの歴史を通してみれば、この数字は劇的なものであり、プレイヤーたちのプレイングがかなり洗練されてきたことが分かる。
「とにかく! 高い自由度の中でもプレイヤーはちゃんと工夫してやってるんです」
「じゃあ、それはまあイイとしてさ……。次の問題は、結局、どのクラスに就けばいいのか分からないってことだよ。やっぱり変換効率の高いクラスに就くのが正解なの?」
「いや。それは人それぞれですし。どのクラスを目指すかは個性だし、どういう計画を立てるかもプレイングの一環で……」
「キミのゲームさ、本当にとにかく分かりづらいんだよ。このクラスが勝ち組! 他のクラスは負け組! まずは勝ち組のクラスに就くのが第一目標! そんくらいハッキリさせないと」
「あの、部長。自由度とか多様性って言葉知ってますか……。それこそまさに人それぞれで、勝ちも負けもなく……みんな違ってみんないい……」
「キミ、そういうの、いいからさ! このクラスが勝ち組だから、まずはこれを目指しましょう! みたいなのをハッキリ書きなよ!」
ク、ク、ク、クソ上司が~~~~!
俺のゲームデザインをまるで理解する気がない!
たとえ明確に有利なクラスがあるとしても、それを見つけるのもゲームプレイの醍醐味だってのに。
クッソ! しかし、後ろで見張られている以上、書くしかない!
えええ……でも、本当にクラス選択に正解とか不正解とかないんだけどな。
あ、一応、あれが正解っちゃ正解か?
そうだ、「上級職」があったな。
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クラスには上級職というものがあります。
上級職に就くことでゲームプレイの安定性が増します。
プレイに余裕が出てきたら上級職を目指しましょう。

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「オッ、いいねえ! 上級職! なんかグッと面白くなってくるねえ!」
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クラスには四つの大分類があります。
「サラリーマン」「経営者」「フリーランス」「農民」の四つです。
この四大分類の中に様々なクラスがあります。
四大分類を二つ以上またいでいるクラスが上級職と呼ばれます。
「兼業農家」は典型的な上級職です。

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本ゲームでは突発的にグッドイベントやバッドイベントが発生しますが、この四分類それぞれでバッドイベント(戦争・財政破綻・シンギュラリティなど)への対応力が異なります。
バッドイベントが発生すると、それまでに蓄えてきた「お金」リソースが目減りしたり、場合によってはクラスそのものが消滅することがあります。

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上級職に就いていれば、危機状態における対応力が倍になり、よりしぶといプレイングが可能になります。
たとえばバッドイベント「第三次世界大戦」が発生し、勤め先がその余波で倒産しても、上級職「兼業農家」であれば、クラス「農民」の方で引き続きリソース変換を行うことができます。食料生産職は緊急時にこそ輝くからです。

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「なんかさ…………上級職って語感の割には、あんまり夢がないね、キミ」
「いや、上級職、マジで強いんですって! 平時のことだけ考えるとアレですけど、バッドイベントまで折り込むと強いんですって! いや、折り込まなくても、サラリーマンやりながらフリーランスとか、経営者やりながらフリーランスとか強いんですって!」
「あのさあ。なんでドキドキしないかって、結局、これもマイナスに対する備えでしかないんだよね」
「ていうか、キミのここまでの説明、全部マイナスに対する備えばっかりじゃん。『寿命』がなくなるとゲームオーバーです。『お金』もなくなるとダメです。『クラス』もバッドイベントで吹っ飛ぶから気をつけましょう。そんなのばっかりで、ぜんぜん気持ち良くなれないよ。結局、どうすれば幸福ポイントを稼いでゲームが楽しくなるのよ」
「それはまさに次の『幸福ポイントを稼ごう』で説明するんですよ!」
(続く)
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登場人物紹介

■神A


若手のゲームプロデューサー。これまで温めてきた持論のゲーム理論に基づき、圧倒的自由度をウリとするMMORPG『人生』を開発した。しかしその自由度の高さが災いし、プレイヤーたちから「よく分からん!」と苦情や嘆きが殺到。上司に睨まれる。

■神B


神Aの上司で部長。百三十億年前に『銀河』というゲームを開発した。星を生み出しては爆発させて銀河系を育てるだけのシンプルなクリックゲームにも関わらず、多くのプレイヤーを熱狂させた(神Aは「他愛のないゲーム」と見下しているが実は結構なヒット作)。

■ヨブ


運営に対して長文の苦情を送ったことで歴史的に有名な人物。そのあまりに執拗な苦情っぷりに、当時、神Aがブチギレて、ゲームプロデューサーの身でありながらログインし、ヨブに向かってShoutコマンドで怒鳴り散らした。ヨブはビビって苦情を取り下げた。本編には特に出てこないが面白かったから書いた。

■説明書


神Bの監視の下、神Aがいやいや書いている説明書。

■ガブリエル


神Aの部下。主に告知担当。

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