五、激アツ確変で幸福点を稼ごう
文字数 4,253文字
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幸福点を稼ぐ方法は簡単です。
「寿命」から変換した「お金」を消費して、「美食」「アルコール」「セックス」などを入手し、消費しましょう。
気持ち良くなったり、嬉しくなったりして幸福点を入手できます。
ただし、これらをあまりに消費しすぎると、バッドステータス「不健康」となり、「寿命」が短くなりますので、注意しましょう。
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「あ、ボクだけど。ウン……。例の『人生』の件ね。もはや救いようのないクソゲーであることが確定的に明らかとなったから今すぐサービスを中止して……。ああ、ウン。いつも通り、プレイヤーには七つのラッパでアナウンスを……」
あっ……!
しまった、そうだった!!
このクソ上司は三千年前にプレイした際、あるまじきことに初期ボーナスをいじって、知力ステをMAXにした上で王族として生まれて贅沢三昧しやがったんだ。
その上、いちプレイヤーのフリして、「何やっても虚しいしクソゲーだと思います」とかいう苦情を俺に送ってきやがったんだった!
ぐ、ぐわ~~~~っ!?
か、書くしかないのか?
できれば誤魔化してこのまま終わらせたかったのに。
えっ、てか、マジでこれ書かなきゃいけないの?
このゲームのいちばん大事なところなのに?
えっ、ええええ~。芸人が自分のネタを解説するような辛さがある……。
そうなのだ。「人生」のようなキャラクター成長型のゲームで何が一番重要かって、リソースを消費して習得したスキルがちゃんと役立つことなのだ。
せっかく習得したスキルが、一度も使う機会がないとか、全然役に立たないとか、目に見えた効果がないとか、そういうのが一番悲しいのである。
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スキルを使用して、「難しいが不可能ではないこと」に成功すると、獲得幸福点に倍率が掛かります。
また、熟練度が溜まり、スキルレベルも上がります。
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そして、公共に寄与するような「有意義なこと」にスキルを使用すれば、「尊敬」や「名声」を獲得でき、自尊心を満足させることで、さらなる幸福点を獲得できます。
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例えば、クラス「外科医」などが分かりやすい。選択して入手したスキル「手術」を使って難しい手術を成功させれば、自尊心が得られ、高い幸福点を獲得できる。さらに熟練度が溜まることで「手術」スキルのレベルも上がり、「名医」「神の手」などの名声やトロフィーを得ることができる。
実は理由は分かってる。上司は初期ボーナスポイントをイカサマしたからだ。ポイントは「難しい問題を」「自分の選択スキルで解決する」ことだから、チートしてた上司にはあんまり難しいことがなかったんだろう。愚かなやつめ。
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「入手したスキルを用い」「難しい問題をクリアする必要があり」「それが有意義である」ようなクラスに就くと、「寿命」から「お金」の変換中にも幸福点を稼げるようになり、大変に有利となります。
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「正確には皆が皆、幻想ではないですが。バッドステータス『退屈』はかなり重めのマイナス効果に設定してあるんです。自分で『やりがいのある楽しいこと』を設定できて、それに邁進できれば別ですが、大抵のプレイヤーにはそれを思いつく事ができません。少なくともバステ『退屈』を解除できるだけ、働いてる方がまだマシだったりもします」
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他者から成功を認められると、隠しパラメーター「やる気」にプラス補正が掛かり、新しいスキル習得や、別の「有意義だけど難しい問題」に挑戦しやすくなります。
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そう……これが「人生」の最大のウリ、「確変システム」だ。
一回成功して他プレイヤーから認められると、名声や賞賛による幸福点が継続的に入ってくるので、失敗を恐れることなく新スキル取得や次の「難しいけど有意義なこと」に挑戦することができる。
勝っているやつがさらに勝ち続けるシステム……。既に幸福点をゲットしているプレイヤーが、さらにどんどん幸福点を稼いでいくシステムなのだ。
何もしないとバッドステータス『退屈』に陥ってキツイので、何かやる。それもできるだけ有意義で公共に寄与するものの方が幸福点に結びつきやすいので、それをやる。すると周りの人間にとっても幸福点を稼ぎやすい環境が整う。これにより、種族ホモサピエンス全体、つまり、サーバーのプレイヤー全体の幸福点が増大していき、どんどんハイスコアが更新されていく……。
なるほどね、こういうゲーム性だったわけだ。言われてみると確かに結構楽しそうな気がするけど、プレイしてる時は一ミリも気付かなかったよ。……キミねぇ〜。やっぱりダメだよ、こういう大事なことははっきり言わないとさ〜。
第三に……こういうのは、あんまり言ってもロクなことがない。実は俺も二千年ほど前に魔が差して一回やってしまったのだ。いまいちプレイヤーたちがシステムを理解してないから、いちプレイヤーとしてログインし、運営側の意向をそれとなく伝えようとTipsを呟いて回ったりしたのだが、なんか周りの癇に障ったのか、ひでえ目に遭わされて殺されてしまった。マジですげえ痛くって、もう二度とログインなんかしないぞと心に誓ったものである。
「フーン……。ならさ、このハイスコア暫定一位のプレイヤーさ。彼なんかはシステムをしっかり理解して攻略してたわけね? ……えっと、プレイヤーIDは……シ、シャーキャ……あれ? でも、この彼、さっき言ってたようなプレイングとは全然違うような……」
俺は慌てて話をずらして上司を丸め込んだ。あ、危ないところだった……。あれだけ言っておいて、暫定一位のプレイヤーが、俺のゲームデザインをガン無視して、バグ利用してハイスコアを叩き出したクソッタレのチート野郎だなんて上司に知れたら……。お、恐ろしい。
(続く)