七、ボーナスタイム突入! 「思い出す」コマンドでスコアを伸ばそう

文字数 2,928文字

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突発的イベントはグッドイベントだけではありません。地震や台風などの完全なランダムイベントから、交通事故や経済破綻などのプレイヤー間のアクシデント、さらには戦争などのPvPが発生します。
これらによりリソースが減少したり、プレイング計画が狂ったり、幸福点が伸び悩んだりすることがありますが、それらへの対処もゲーム性のうちですので、プレイヤー自身で巧みに対処して他プレイヤーに差をつけましょう。

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繰り返します。バッドイベントもゲーム性のうちです。決して運営側に文句を言わないで下さい。

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よし。どうせ説明書を書かされるなら、俺だって言いたいことくらいは書かせてもらわないとな。
「でもキミさあ。各自で対処ったって限界があるでしょ。バッドイベント一つで溜め込んできた『お金』リソースが吹っ飛んだりしたら、やっぱりクソゲーなんじゃないの」
「そこを何とかするのもゲーム性なんですよ! 実際、一人じゃ対応できなくても、プレイヤー同士で協力してリスク分散するシステムを作ってたりするんです。『保険』っていうんですけど……」
正直、バッドイベントは俺の手に余っているところもある……。
地震や台風も始めから意図して組み入れたわけではなく、地形や天候システムを作った結果、半ばバグ的に発生したものなのだ。直すためには地形や天候システムを最初から見直す必要があり、予算オーバーだったので仕様にしてしまったのだ。
「地殻が動いてて、毎年地形が変わるとかメチャ面白くないっすか! それで文化交流とか生まれるんすよ!」
と興奮して言ってきた部下のアイデアを、うっかり魔が差して取り入れてしまったあの時の俺をグーパンしたい。
本当は地形ももっとグニグニ動くはずだったのだが、エラー(地震)が発生しまくったので、移動スピードを減らしていった結果、ほとんど地殻移動は体感できなくなり、死に設定になってしまった。なのに地震エラーだけ体感できるという最悪の設計ミスとなってしまった。
しかし、プレイヤーたちは、本当によく対応している。保険システムは本格的に整備されてきたのはつい最近になってだが、数千年ほど前から既にその萌芽はあって、海難事故や火災に備えてきた。
「あ、なるほど、こうやって攻略するんだ」
と、モニターしててちょっと感心してしまったくらいである。
「ウーン、お金リソースはそれで何とかなったとしても、実際、仲の良いプレイヤーが突然ゲームオーバーになったら落ち込むよね? スコアをバリバリ稼いでたプレイヤーでもそういうの一発で伸び悩んだりするし。苦情で一番多いのもやっぱそれなんだけど」
「まあ、それは仕方ないっすよ。そういうゲーム性なんですから……。あえて言うなら、『趣味』をたくさん持ってると対応しやすいですね。……一応書いときますか」
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寿命をお金に変換する『仕事』の他に、『趣味』を持つこともできます。『趣味』は『仕事』と異なりリソース変換は行なえませんが、『仕事』と比べて選択の余地が広く、入手条件も緩めです。ただし、一部の『趣味』はお金リソースを多く消費します。
『趣味』にリソースを注ぎ込むことで幸福点やトロフィーを入手できる他、新スキルをゲットしたり、新たなクラスを獲得することもあります。
また、保険としての意味合いもあり、突発的バッドイベントにより隠しパラメーター『やる気』が下がった時に、回復力を高める効果もあります。
リソースを『仕事』と『趣味』にバランス良く割り振るのがポイントです。

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ただし、『趣味』を入手するためには『やる気』パラメーターが必要です。『やる気』が下がってから『趣味』を入手しようとしても遅いので、『やる気』があるうちに『趣味』を確保しておくことをお勧めします。

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あとさあ。ちょっと気になってたんだけど、「寿命」リソースがかなり少なくなってくると、最後、ロクに身体も動かなくなるじゃん。「お金」リソースだけ大量にあっても何もできないみたいな。あれ、なんとかなんないの?
「い、いや、あれもゲーム性のうちなんですよ。むしろ、みんな身体が動かなくなるから、そこで差を付けることができて……」
くっ……。上司(クソ)のくせに鋭いところを突いてきやがる。
「た、確かに一見不自由にも見えますが、全員同じな訳ですから基本的な条件は同じなわけで……、別の角度から見ればむしろこれはボーナスタイムなんですよ!」
「フーン……」
よし! こういう時は「別の角度から見れば」とか「逆説的に言えば」とかのよく分からない枕詞で煙に巻くのが一番だ!
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多くのプレイヤーは一定の「寿命」リソースを消費した段階で「引退」イベントを迎えます。
現在のクラスを失い、クラス「リタイア」にクラスチェンジします。
ここまで巧いプレイングをしてきたプレイヤーであれば、「お金リソース」に余裕があり、残りの「寿命」リソースを自由に使って幸福点を稼ぐことができます。

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ただし、寿命リソースが残り少なくなると、行動力が格段に減少するため、自由度が大幅に下がり、思うように幸福点が稼げなくなります。

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ですが、そうなってからが他プレイヤーと差を付けるチャンスです。
コマンド「おもいだす」を使用することにより、過去に入手したトロフィーを確認し、幸福点ボーナスを得ることができます。
さらに、イベント「子育て」などをクリアしていれば、コマンドが進化し、コマンド「武勇伝」が選択できるようになります。子や孫を相手に若かりし頃のトロフィー入手実績を尾ひれ背びれを付けて語ることにより、自尊心が高められ、さらなる幸福点ボーナスを得ることができます。
コマンド「おもいだす」「武勇伝」は「寿命」リソースが残り少ない状態でも使用することができます。リタイア後のボーナスタイムを有効に活用するためにも、「寿命」リソースに余裕のあるうちにできるだけトロフィーを入手しておきましょう」

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まあ実際、「寿命」リソースが残り少なくなってから自由度が大幅に下がるのは、完全に想定外だった。自由度が下がったらすぐにゲームオーバーになるはずだから、いいや、と軽く考えていたのだ。それがまさかこんな状況になるとは……。
まあ、「おもいだす」によるボーナス点を高めに設定したから仕様ってことで大丈夫だろう。うん。これもゲーム性だ。よし。
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登場人物紹介

■神A


若手のゲームプロデューサー。これまで温めてきた持論のゲーム理論に基づき、圧倒的自由度をウリとするMMORPG『人生』を開発した。しかしその自由度の高さが災いし、プレイヤーたちから「よく分からん!」と苦情や嘆きが殺到。上司に睨まれる。

■神B


神Aの上司で部長。百三十億年前に『銀河』というゲームを開発した。星を生み出しては爆発させて銀河系を育てるだけのシンプルなクリックゲームにも関わらず、多くのプレイヤーを熱狂させた(神Aは「他愛のないゲーム」と見下しているが実は結構なヒット作)。

■ヨブ


運営に対して長文の苦情を送ったことで歴史的に有名な人物。そのあまりに執拗な苦情っぷりに、当時、神Aがブチギレて、ゲームプロデューサーの身でありながらログインし、ヨブに向かってShoutコマンドで怒鳴り散らした。ヨブはビビって苦情を取り下げた。本編には特に出てこないが面白かったから書いた。

■説明書


神Bの監視の下、神Aがいやいや書いている説明書。

■ガブリエル


神Aの部下。主に告知担当。

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