2022.10.3〜10.9

文字数 1,513文字

///あの日に帰りたい?///10.3

あの頃に帰りたい、とかみんな言うけど、ほんとかな?

たしかにあの頃は、こんなふうにあちらこちらに気を使って生きていなかったし、死にたい気持ちでお金のことを心配した事もなかった。その死というものだって、現実味のない遥か遠くの事だった。

断片的に蘇る記憶はたしかに懐かしくも愛おしくもあるど、そこにあまり人は登場しない。もし誰かがいたとしても、その人物の顔にはモヤがかかっている。

遡れば遡るほどそのモヤは深くなり、やがて顔を無くす。

私の人生は少しずつだけど良くなり、たぶん今がいちばん幸せなのだ。

反対する人は多いと思うけど、世の中も少しずつ良くなっていて、これからも良くなるのだ。

わずか80年前は空から爆弾が降った。
その少し前は、侍に無礼があったら切り捨てられた。そのずっと前は生まれた途端に獣の餌になった。

ほんとにあの頃に帰りたいのだろうか?
あ、これはだいぶ話がズレたね。



///10人トイロ///10.4

あの奇抜な色の車を選んだ人はどんな感覚の持ち主なのだろう?あのかなり個性的な壁の色を決めるのに、建て主はきっと眠れないほど悩んだり、とことん話し合ったりしたのだろう。

人の好みはそれぞれで、他人がどうこう言うべき事ではない。だけどついつい口に出してしまう。

凄いセンスだね。この壁ヤバイね。

うっせーわ!と言われるだろうけど、更に口から出てしまう。

乗ってしまえば自分からは見えないけど、ムリ。家の外観は公共物なのに、ネー、と。

まあ、もし自分が言われたら言うけどね。

ホントうっせーわ!って。


///きりとりません///10.5

夜明け前の東の空はダメだ。涙が出そうなくらいムリだ。あなたに見せたい。伝えたい。

カメラにおさめて持ち帰る。言葉にして映し出す。

才能なのか鍛錬なのか。語彙力なのか表現力なのか。いずれにしても半分も、その半分も伝えられない。

だからもう切り取らない。伝えようとすることもやめた。ただただ、心に焼き付けよう。

私の中のあの空が溢れて、あなたの世界を染めるよう。


///くるくるくるり///10.6

歴史好きの祖母は私を膝に抱いていろんな話をした。

世界中で不幸せな戦争がたくさんあった。でも忘れちゃだめだよ。たくさんの命が無くなって、それで世界は少しずつ良くなった。だから大丈夫。

祖母が命という言葉を口にするたびに、私は祖母が死んでしまうことを想像してとても怖くなった。そう言うと祖母は私の頭に優しく触れながら言った。

大丈夫だよ。必ずまた会えるから。命は廻る。くるくるくるり。


///ふたり///10.7

僕と妻は、迷ったら捨てるという基準のもと、新居に運ぶものを厳選した。

途中でどちらかがその取捨の基準を忘れ立ち止まると、もうひとりが穏やかに戒めた。ふたり同時に動けなくなることも幾度となくあった。

それが歩いてきた道のりの証であり、それでもまた歩き出せることが、ふたりで生きることの意味なのかもしれない。


///ラブソング///10.8

あのメロディライン。囁くような歌声。

ラブソングだと思っていた。反戦の空気感を感じはしなかった。

LOVE &PEACE!愛と平和は同じベクトルの上にある。

でも、

ラブソングだと思っていたのに。


///悔しくて///10.9

とにかく悔しかった。

心に染みる音楽。感動のラストシーン。誰もが涙する名ゼリフ。

私の心が動く時、誰かが裏で糸を引いている。誰かが涙を流させようとしている。

そいつは涼しい顔なのに、こちらはボロボロ。

だから感動させる方に回ろうと思った。涼しい顔で糸を引く側に。

でも糸を引っ張りながら泣いている自分に気づいて、泣かされるのも悪くないと、今は思う。











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