2022.10.24〜10.30

文字数 1,471文字

///愚痴///10.24

60年も前に嫁いだ相手が失敗だったと、いまだに悔やんでいる叔母A。還暦過ぎた娘の出来の悪さを自分の育て方が悪かったのだと悔やみ続ける叔母B。ここのところ、毎晩自分の寝室が怪しい大男に覗かれていると言い張る叔母C。

そんな3人の姉の変わり映えのしない話をもう何年も聞き続けていると嘆く我が母の話に何年も付き合っている私の愚痴がこれ。


///ミツヲ///10.25

暑い暑いと文句を言ってたら、ちゃんと寒くしてくれた。なのに今度は寒い寒いと文句が出る。

ありがとうのひと言くらい無いとあちらだってヘソを曲げそうだけど、そんなに器は小さくないみたい。

そりゃそうか。何万年か何億年か、数の単位も分からないくらいの大仕事の最中だもの。


///ニセモノ///10.26

それは息を呑むほどに美しい景色だった。

水路の水は陽の光をキラキラと反射させながら、大小の岩が作り出した緩やかな斜面を静かに降り、新緑の葉で彩られた林に囲まれた湖へと流れ込んでいる。

湖水はどこまでも透き通り、頭上に広がる青い空とそこに浮かぶ幾すじかの白い雲を水面に映す。

何種類もの花々が咲くその畔では、水草の緑色が水と陸との境目を曖昧にしていた。

私には確信があった。この風景は偽物だ。

だってここは地下鉄の駅から更に深く降りた場所なのだから。


///その扉///10.27

大小無数の渦巻きのようなものが折り重なり複雑に絡み合っている。それは蠢く蛇の群れのように見えたし、一度巻き込まれたら決して抜け出すことの出来ない渦巻きのようにも見える。

突然目の前に現れたその鉄のようなものでできたその扉は、桁違いの不気味さと迫力で私を威圧した。

しかし私はこの扉を開けなければならない。蠢く蛇のような渦巻きの隙間に手を差し込んで。


///そんな夢を///10.28

あの時必死で揃えたコミック全巻20冊。まだ読み始めることができないのは、それに膨大な時間を費やさなければならないことがわかっているから。

背景の細かなところや、人物の瞳に宿る闘志みたいなものまで凝視していては、一冊読むのにいちにちではたりないだろう。

アニメーションも小説も映画も、作り手がどこまでこだわり、悩み、時間をかけたかを思うと、見逃していい部分などないのだ。

でも書く立場から見れば、凝視などしなくてもサラッと読んだだけで、その人の時間をすべて持ち去るような、そんな夢をみているのだ。


///言い方///10.29

コーヒーって美味しいけど、コーヒーの香りがとてもいいと感じるときのレベルほど美味しくないよね。

ちっちゃい子供用の靴とか靴下とかってすごく可愛いけど、それに比べたらちっちゃい子自体はそこまで可愛いくないよね。

たしかにその通りだけど、違う言い方に変えた方がいいよね。


///そういう形///10.30

形状をあらわすどんな言葉を並べてもそれを表現することは難しく、その試みは歯がゆさと無力感を生むだけだ。

それは伝えようとすればするほど実態から遠ざかってしまう夢の解説に似ている。

ささやかな抵抗の手段として、きわめて比喩的な言葉を用いてみよう。

地表に湧き出た得体のしれない灰色をした半固形物を、天から伸びて来た巨大な手が無造作に掴み天空に向けて垂直に引き延ばした。無造作という言葉とは裏腹にそれは決して乱暴な行為ではなく、熟練の陶芸家がろくろの上に泥の柱を築くように繊細で、その所作は深い慈悲のようなものすら含んでいた。そして最後にどこからか取り出した鋭い刃物でその先端を斜めに切り落とした。とても静かに。

そういう形だ。















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