2022.10.10~10.16

文字数 1,458文字

///ヤツラとアナタ///10.10

子供の成長だけを生き甲斐にするような夫婦にはなりたくないって話したね。

でもふたりの道を振り返るとき、分け合った辛さも馬鹿みたいに楽しかったシーンも、そこにはヤツラがいるね。

独りでも人は生き抜いて死んでいくのだろうけど、それはそれでもちろん意味はあるのだろうけど、やっぱりよかった。

ヤツラとアナタがいて。


///絶望///10.11

本物の絶望とはこんなものでは無いのだろう。それはわかっている。でも、どうしようもなく絶望的な気持ちになることがある。

もう二度と学生には戻れないのだと気づいた新宿のスキーバス乗り場。

東京から地方への予期せぬ転勤で、コンビニしか落ち着ける場所が無かった長い夜。

いま大切に思うひとの誰もが、100年後には消えているという確実な未来。


///境い目///10.12

クオリティはいいけどプライオリティはダメ?

プランはいいけどメソッドはダメ?

グループはいいけどカテゴリーはダメ?

ホームページはいいけどウェブサイトはダメ?

メカニズムはいいけどエビデンスはダメ?

我が社の会議は疲れる。


///奇跡の点///10.13

たとえば今ご夫婦であるAさんとBさんの生まれてから今までの人生の移動の記録を、時間的にはひと月単位で、場所の面では市町村くらいの範囲で地図に落とし込んでみたなら、ふたりの出会いがどれほど奇跡的であったかがわかるに違いない。

結婚パーティーの余興とかにどうだろうか。そしてそのパーティーの場が、自分たちの奇跡的出会いの点になったのだと、いずれ語ることになるふたりがそこにいるかもしれない。


///自転車///10.14

私はそのとき20代のなかば。そのころ働いていた会社の上司に言った。自分はいずれこの国を変えるような人間になると。たしか新宿の焼肉屋で酎ハイを飲みながら。

「いずれ国を変えるような奴は、おまえが焼肉屋で酔っぱらってるあいだに家で必死に勉強してるよ」

上司のその言葉とあきらめ顔の意味が今になってようやくわかる。勉強しない奴は国を変えるどころか、自分の生活すらままならなくなるのだ。焼肉屋で酔っぱらってでかいことを言っていた私は、あのとき家で勉強していた人間が作ったいろんなルールのもとで、休めば倒れる自転車を必死にこいできた。そして今でもこぎ続けている。


///バンセイ///10.15

「あなたは典型的な大器晩成型です!」

その言葉の主さえ覚えていない。四柱推命か、タロットか、はたまた六星占術か。いずれにせよ謎は解けた。

そうか!すべてはこれからだったのか!

大器晩成。なんと素敵な言葉だろう。そのとっても猶予的な言葉に支えられながら、時は流れる。

いったいどれくらい遅れてソノ時は訪れるのだろう?


///歴史///10.16

私を乗せたタクシーは急なカーブをいくつか曲がりながら坂道を上った。

谷をひとつ隔てた向こう側の山には、太陽光発電所へと姿を変えたかつてのゴルフ場が見える。

山肌を埋め尽くしたパネル群は午後の陽ざしを受けて、青とも黒ともつかない色に輝いている。それは山を這い登り、地上のもの全てを飲み込もうとしている得体の知れない巨大生物のようにも見えた。

長い歴史を振り返れば、世界は確実に良い方向に向かっている。それなのに日々自分たちの身の回りに起こることは不満や不安に充ち溢れているのは何故なのだろう。

かつてこの山を切り開いてゴルフ場が造られた時、人々は嘆き、不快感を訴えたことだろう。いつの日か人々はこのパネル群を懐かしく思う日が来るのかもしれない。
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