第4話-③

文字数 996文字

さぁ、(ゆう)(おう)を混ぜて薬水をつくりましたよ。

寝間を覗くと、富子、いや真女子の姿があった。

私が手招きすると、法師は毒の入った小瓶をつかみ、ひとり入ってゆく。

庄司殿、奥方、みな後ずさりし、柱の陰に隠れた。

何をそう怯えておられる。

すぐに捕まえてご覧にいれましょう。

と、法師が襖を開いたとき・・・・・・
うわぁあああ!

大蛇(おろち)がぬっと頭を向けてきた。

その大きさたるや、人を一口で呑めるほどだった。

ついに真女子が、本性を現したのだ。

堪忍、堪忍じゃ!
法師はほうほうのていで引き返してきた。

あれは、あれはわしの手に追えぬッ。

なんという祟りたたりがみを呼びおった!

開いた襖の向こうで、大蛇がとぐろを巻いていた。

体は雪のように白く、目は鏡のように光を宿し、

角は枯れ木のように尖っていた。

血の色をした舌先が伸びて、にょろにょろと動いていた。

法師はうずくまり、何やら呪文のようなものを唱えていたが、

大蛇の舌先が伸びて、その禿げ頭にぺろりとふれたとき、

おののき卒倒してしまった。

みなで助け起こそうとしたが、毒気にやられたと見え、

その顔も肌も赤黒く変色し、すでに絶命していた。

開かれたままの両眼が、何かを訴えかけていた。

私たちはもう、生きた心地がしなかった。

・・・・・・真女子、真女子なのか?
いかん、寄ってはなりませんッ。

真女子なら、そんな恐ろしい姿を見せるのは、どうかやめてくれ。

・・・・・・

このとおりだ。もとの真女子に戻ってくれ。

私が、私が間違っていた。

戻ってくるんです!

庄司殿、かくも霊験あらたかな法師ですら、この有り様です。

この大蛇は私がどこへ往こうと必ずや追ってくることでしょう。

こうなっては、この身ひとつを捨て、

万事それで片づけるよりほかに手がないように思うのです。

正気で言うておられるか!

寝間に踏み入れば、すでに大蛇の姿はなく、

真女子とまろやが並んで座し、

いつもとは違う眼差しを向けてきた。

旦那様は何の恨みがあって私を苦しめようとなさるのです。

あの()交わした誓いの言葉をお忘れか。

お嬢様の辛抱もこれを限りと思うてください。

次このようなことをなされば、

お嬢様はこの村に祟りの雨を降らし、血の海に変えましょう。

わ、わかっている。もう逃げも隠れもせぬッ。

だから村人を巻き込むのはやめてくれ。

よろしい。
真女子と、二人きりにさせてくれぬか。

話がしたい。

まろや。
はい。
侍女のまろやは下がった。
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登場人物紹介

豊雄(とよお)

真女子(まなご)

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