第4話-①
文字数 1,799文字
紀伊国三輪崎へ戻った私は、手垢のついた漢籍を木箱にしまい、
父上兄上の仕事を慣れないながらも手伝った。
知らぬ間に、私の縁談が進められていた。
芝の里に庄司という者がいた。
娘が一人おり、朝廷の采女として差し出していたが、
このたび暇をもらい、婿さがしをしているという。
すべては一足飛びに整った。
娘の名は富子と言い、長年内裏仕えしていたこともあり、
容姿、立ち振る舞い、ともに華があり見事であるという。
誰もがうらやむ縁談だった。
「旦那様、今宵は千年の契りを結びとうございます・・・・・・」
私は富子に、真女子のことを忘れさせてほしいと願った。
けれど私にはわかっていた。
真女子の美しさにかなう者がいようはずがない・・・・・・
私は庄司殿の家に婿入りした。
噂どおり、私にはもったないない女だった。
黒髪が長く、とても美しい。
はじめの夜は何事もなかった。
私は富子にふれることができなかった。
なぜだかわからない。
二日目の晩、私は富子と寝間に入り、語り明かした。
宮中で様々なものを見聞きし、
男心を知り尽くしたからであろうか、
出会ったばかりだというに、
私の考えが何から何までわかってしまうかのようだった。
ふいに、富子の顔色が変わった。
そして、その声までも・・・・・・
私の背筋に、さっと冷たいものが走った。
今や富子の姿形まで真女子に様変わりしていた。
その白い手が、指が、私の着物の襟の中へ、滑り込む。
と、屏風の後ろからまろやが歩み出てきた。
その瞳は、蛇のように薄かった。
まろやの口から、二股に割れた舌先が伸びた・・・・・・
私は、気を失った。