第2話-③

文字数 904文字

これでは()()住処(すみか)ではないか。

そこはもう、人の住めるところではなかった。

厳かだった門の柱は朽ち果て、のきの瓦は砕け落ちていた。

草むらは膝丈まで伸び、踏み入るのも難儀なほど。

こ、こんなことが・・・・・・

しかし、そこはたしかに、真女子の屋敷だったはず。

どこか見覚えがある。

熊檮は通りすがりの者を呼び止めては・・・

此処に誰が住んでおった? 

県の真女子が住んでおったか?

・・・と、尋ねて回った。

そのような人の名は聞いたことがございませぬ。

三年ほど前まで村主すぐりの某という人が住んでおりましたが、

商いに躓いて家が傾き、みな失せてしまいました。

そ、そんなはずはない!

なにやら奇妙なことばかりだ。

中へ入り、検分するとしよう。

奥へ進むと、そこはさらに荒れていた。

広い前庭まえにわがあったが、池の水は干上がり、水草みずくさはみな枯れている。

生い茂ったやぶと折れ曲がった松の木が、私たちの行く手を遮っていた。

ふぅ、どうにか表座敷に着いたぞ。

と、その格子戸を開いたときだった。

生臭い風が、わっと吹き込んだ。

あ!

みな後退(あとずさ)った。

なにか得体の知れない者がそこに潜んでいると、肌に感じたのだ。

うろたえるな! わしの(あと)についてまいれ!

豪胆な熊檮(くまがし)は臆することなく奥座敷へ向かい、襖を開いた。

塵が積もり、鼠の糞で汚れた畳に、あの日見たのと同じきらびやかなちょうが立っていた。

そして、その陰に、夜桜のように妖艶な女が、真女子が坐していた。

おい女! そこで何をしておる!
・・・・・・

何か言ったらどうだ! 国の(かみ)のお召しである。

ともに来てもらうぞ!

・・・・・・

おい、立たんか!

熊檮が真女子の肩にふれようとしたとき、

突然、地も裂けんばかりの雷鳴が鳴り響いた。

みな気を失い、その場に倒れてしまった。

どれくらいときが経ったのだろう。正気を取り戻したのは私のみ。

辺りを見回せば、すでに真女子の姿はなかった。

代わりに、高麗こまにしきくれあやおり固織かたのおり、盾、ほこゆきなど、

神宝かんだからおぼしき品々が散乱していた。

雨が、降っていた・・・・・・

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登場人物紹介

豊雄(とよお)

真女子(まなご)

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