第2話-①

文字数 1,191文字

いつまで寝とるか。さっさと起きよッ。

兄上の怒声で、私は飛び起きた。

見上げれば、鬼形相で仁王立ちしていた。

私は浜に出ぬと、何度も言ったでしょう。

寝かせといてください。二日酔いで、頭が痛い。

馬鹿野郎! そんな話じゃない。あれは何だッ。
兄上の視線を目で追うと、そこに・・・・・・
あの宝剣を、どこで手に入れた!

あれは・・・・・・

あれは昨夜ある人より、いただいたものにございます。

もらっただと?

同じつくなら、もっとマシな嘘をつけ。

嘘ではありませぬ。

くだらん漢籍ばかり読み、博士の真似をしておるわと呆れておったが、

今度は侍になるつもりか。

信じてください。あれはいただいたものにございます。
誰に!
それは・・・・・・

かといって働きもせぬおまえに、銭は積めぬか。

まさか! いずこより盗んできたのではあるまいな。

違います! 断じて。

まぁそんな肝っ玉もないか。

網子あみこを待たせている。浜へ行く。

父上、母上には伝えておくぞ。

兄上・・・・・・

その日の晩は、真女子のもとへ通うことができなかった。

約束を破ってしまった。

私は話を聞いた父上、母上、兄嫁に、釈明せねばならなかった。

こんなたいそうなもの、何に使おうと思って()うたんだい?
ですから、いただきものにございます。

馬鹿言うのもたいがいにしな。

おまえ、太郎の銭をくすねたんと違う?

誰が! 誰がそんなことをしますか。
日頃、聖人・賢人とやらの教えを学んでおる者が、何たる不始末。あぁ嘆かわしい。

どうしていつも兄上の言い分ばかり真に受けるのです。

この太刀は、ある高貴な人よりいただいたのです。

わかった、わかった。ならば何の所以(ゆえん)があってもらい受けた? 言うてみよ。

それは・・・・・・

父上、母上を前にしては、いささか申しにくいところがございます。

はぁ? 親にも言えぬと?

お父様、落ち着いてください。何やら事情があるのでしょう。

ここは私が代わりに・・・・・・

さぁ豊雄、奥に、こちらへ来なさい。

いつも義姉上(あねうえ)だけが私のことをわかってくださる。

もともと義姉上には話をするつもりでいた。

その(あがた)の真女子とかいう(ひと)が、結納のあかしとして太刀をくださった、

そういうことですね?

私は身ひとつ立てられぬ未熟者であるゆえ、

真女子をめとってよいものか、どうか・・・・・・

いえ、しっかりと顔に出ていますよ。
はい?
好いとるのでしょう?
それは・・・・・・はい。

常々男ひとりのあなたを不憫に思うとりました。

これも何かの御縁でしょう。

結構なことではないですか。

しかし父上は、きっと快く思わんでしょう・・・・・・

わかりました。

あなたがそれを望むなら、私からとりなしてみましょう。

義姉上が?
えぇ。

それなら許してもらえるかもしれませぬ。

義姉上、どうかお願いいたします。

あらまぁ、頭を下げるのはよしなさい。
私は、すべてを義姉上に委ねた。委ねてしまった・・・・・・
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登場人物紹介

豊雄(とよお)

真女子(まなご)

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