やっぱりお通夜になって
文字数 2,095文字
次の日。八月二十日は朝からいろんな人が来てあわただしかった。
やっぱり棺桶が来てしまった!
葬儀屋の人たちは、手際良くお父さんをその棺桶に入れ、祭壇や玄関前の受付の準備もやった。
お母さんや妹も、家の掃除や片付けもので忙しそうだった。
だけど僕はひとりで悩んでいた。
〈お父さんを光線銃で殺したのは僕だ。だったらそれを隠しておく訳にはいかないじゃないか? 昨夜お父さんを光線銃で撃った時、僕はあわてて銃をポケットに隠したけれど、本当は正直にお母さんに言うべきじゃなかったのか?〉
僕は考えた。
〈正直に、正直に、正直に!〉
それで、さんざん迷ったけれど、忙しそうに掃除をしているお母さんをつかまえると、僕は思い切ってこう言ったんだ。
「お母さん。実は僕…、お父さんをオーラム星から持って来た殺人光線銃で撃ったんだ。だから僕がお父さんを殺したんだ。僕のせいなんだ!」
だけどお母さんは、箒を手に持ったまま、僕にこう言った。
「オータム星がどうしたって? もうバカな事言ってないで、あなたも少しは手伝いなさい!」
それで僕は庭の掃除をする事になった。
そもそもこんな話、信じてもらえる訳もなかった。
夕方までには親戚の人やお父さんの同僚やお坊さんやらがどやどやとやって来て、お通夜が始まった。
武内先生も来てくれた。とてもショックを受けているようだった。
とにかく沢山の人で和室が一杯になった。
それからぴゃーちゃんもとことこと歩いて来て、一つの座布団を占領した。
そしてお坊さんのお経やご焼香が終わると、後はみんな黙って座っていた。
夏休みの宿題を取りに僕とセリア君とで地球に戻って来て、タイムマシンの誤作動で迷い込んだ、あの八月二十日と全く同じ状況になってしまったんだ。
〈あの「運命変更大作戦」とは一体何だったのだろう? あんなに苦労して、結局何もかも元どおりになってしまったじゃないか。やっぱり運命って、変えられないのだろうか…〉
みんなと一緒に座り、僕はそんな事を考えていた。
それからしばらくして、ふと僕が前を見るとぴゃーちゃんが小さな虫か何かに猫パンチをしているのが見えた。
それを見た僕は、セリア君と僕が乗ったアクエリアスがぴゃーちゃんの猫パンチで撃墜された時の事を思い出した。
あの時、僕らはアクエリアスを低空飛行させ、着陸する場所を探していたんだ。そしてぴゃーちゃんの猫パンチに襲われて…
それで僕はさらに絶望的な気持ちになった。
〈だめだ。これでは何もかも、あの日をコピーしたみたいに時が流れている。お母さんも妹もあの日と同じようにわぁわぁ泣いているし、よりによってぴゃーちゃんまで同じ事を…、冗談じゃない。だから何かを変えないと!〉
僕はそう思ったので、何かを変えるために、ともかく僕は、少なくとも泣かないようにした。
あの日、アクエリアスから見た僕は泣いていたけれど、この僕は泣かないように決めたんだ。
泣いてたまるか!
それで僕はお父さんの論文発表の時の恐いおじいちゃん先生みたいに、無理やり怖い顔をした。
怖い顔をしたのは、自分に腹が立っていたこともある。
とにかく!僕は怖い顔をした。
何かを変えるために…
それからしばらく時間が過ぎた。
突然、お父さんの同僚らしい誰かが、何か話を始めた。
「よりによって博士論文の審査が…」
それは思い切り聞き覚えのある言葉だった。
僕とセリア君がお父さんの棺桶の上でキャッチボールをしていて、僕が後ろに逸らしたボールを節穴から拾おうとした、まさにそのときに聞いた言葉だ。
僕は思わず両手で耳を塞いだ。
そして僕はもう一度絶望に叩き落とされた。
〈これではだめだ。何も変わらないじゃないか! たぶん「泣かない」だけではだめなんだ。怖い顔も! だからもっと、もっと、違う事をしなければ…〉
それで僕は耳を塞いだまま、一人和室を出て、二階の自分の部屋へと階段を駆け上がった。
それから机の前に座り、何をすべきかを考えた。
〈違う行動って、一体どうすればいいの?〉
だけどそのときの僕には、それ以上何も考えられなかった。
考えても考えても、こんな言葉しか浮かばなかったんだ。
〈やっぱりお父さん、今夜死ぬ運命だったのだろうか…〉
涙がぽたぽたと机の上に落ちた。
〈悔しい。僕はこんな言葉しか思い浮かばないのか? お父さんを殺人光線で殺したのは僕だ。だったら責任持って、何か素晴らしいアイディアを思い付けよ。お父さんを助ける素晴らしいアイディアを。何たって僕は、考え事が得意だったじゃないか。何とかしろよ。僕君!〉
それで僕は考えまくった。
考えて考えて考えて、脳が枯渇するほど考えた。
〈とにかくこのままではだめだ。何もかもがあの日と同じように時が流れている。だから何とかしなければ、何とかしなければ、何とか…、よりによってぴゃーちゃんまで同じ事をやっているし。虫か何かに猫パンチを…〉
猫パンチ?
だけどその時、その「猫パンチ」という言葉が僕の心に引っ掛かった。
〈猫パンチ? ちょっと待てよ。一体何に猫パンチ?〉
そして僕の頭の中で、何かが閃いた。
やっぱり棺桶が来てしまった!
葬儀屋の人たちは、手際良くお父さんをその棺桶に入れ、祭壇や玄関前の受付の準備もやった。
お母さんや妹も、家の掃除や片付けもので忙しそうだった。
だけど僕はひとりで悩んでいた。
〈お父さんを光線銃で殺したのは僕だ。だったらそれを隠しておく訳にはいかないじゃないか? 昨夜お父さんを光線銃で撃った時、僕はあわてて銃をポケットに隠したけれど、本当は正直にお母さんに言うべきじゃなかったのか?〉
僕は考えた。
〈正直に、正直に、正直に!〉
それで、さんざん迷ったけれど、忙しそうに掃除をしているお母さんをつかまえると、僕は思い切ってこう言ったんだ。
「お母さん。実は僕…、お父さんをオーラム星から持って来た殺人光線銃で撃ったんだ。だから僕がお父さんを殺したんだ。僕のせいなんだ!」
だけどお母さんは、箒を手に持ったまま、僕にこう言った。
「オータム星がどうしたって? もうバカな事言ってないで、あなたも少しは手伝いなさい!」
それで僕は庭の掃除をする事になった。
そもそもこんな話、信じてもらえる訳もなかった。
夕方までには親戚の人やお父さんの同僚やお坊さんやらがどやどやとやって来て、お通夜が始まった。
武内先生も来てくれた。とてもショックを受けているようだった。
とにかく沢山の人で和室が一杯になった。
それからぴゃーちゃんもとことこと歩いて来て、一つの座布団を占領した。
そしてお坊さんのお経やご焼香が終わると、後はみんな黙って座っていた。
夏休みの宿題を取りに僕とセリア君とで地球に戻って来て、タイムマシンの誤作動で迷い込んだ、あの八月二十日と全く同じ状況になってしまったんだ。
〈あの「運命変更大作戦」とは一体何だったのだろう? あんなに苦労して、結局何もかも元どおりになってしまったじゃないか。やっぱり運命って、変えられないのだろうか…〉
みんなと一緒に座り、僕はそんな事を考えていた。
それからしばらくして、ふと僕が前を見るとぴゃーちゃんが小さな虫か何かに猫パンチをしているのが見えた。
それを見た僕は、セリア君と僕が乗ったアクエリアスがぴゃーちゃんの猫パンチで撃墜された時の事を思い出した。
あの時、僕らはアクエリアスを低空飛行させ、着陸する場所を探していたんだ。そしてぴゃーちゃんの猫パンチに襲われて…
それで僕はさらに絶望的な気持ちになった。
〈だめだ。これでは何もかも、あの日をコピーしたみたいに時が流れている。お母さんも妹もあの日と同じようにわぁわぁ泣いているし、よりによってぴゃーちゃんまで同じ事を…、冗談じゃない。だから何かを変えないと!〉
僕はそう思ったので、何かを変えるために、ともかく僕は、少なくとも泣かないようにした。
あの日、アクエリアスから見た僕は泣いていたけれど、この僕は泣かないように決めたんだ。
泣いてたまるか!
それで僕はお父さんの論文発表の時の恐いおじいちゃん先生みたいに、無理やり怖い顔をした。
怖い顔をしたのは、自分に腹が立っていたこともある。
とにかく!僕は怖い顔をした。
何かを変えるために…
それからしばらく時間が過ぎた。
突然、お父さんの同僚らしい誰かが、何か話を始めた。
「よりによって博士論文の審査が…」
それは思い切り聞き覚えのある言葉だった。
僕とセリア君がお父さんの棺桶の上でキャッチボールをしていて、僕が後ろに逸らしたボールを節穴から拾おうとした、まさにそのときに聞いた言葉だ。
僕は思わず両手で耳を塞いだ。
そして僕はもう一度絶望に叩き落とされた。
〈これではだめだ。何も変わらないじゃないか! たぶん「泣かない」だけではだめなんだ。怖い顔も! だからもっと、もっと、違う事をしなければ…〉
それで僕は耳を塞いだまま、一人和室を出て、二階の自分の部屋へと階段を駆け上がった。
それから机の前に座り、何をすべきかを考えた。
〈違う行動って、一体どうすればいいの?〉
だけどそのときの僕には、それ以上何も考えられなかった。
考えても考えても、こんな言葉しか浮かばなかったんだ。
〈やっぱりお父さん、今夜死ぬ運命だったのだろうか…〉
涙がぽたぽたと机の上に落ちた。
〈悔しい。僕はこんな言葉しか思い浮かばないのか? お父さんを殺人光線で殺したのは僕だ。だったら責任持って、何か素晴らしいアイディアを思い付けよ。お父さんを助ける素晴らしいアイディアを。何たって僕は、考え事が得意だったじゃないか。何とかしろよ。僕君!〉
それで僕は考えまくった。
考えて考えて考えて、脳が枯渇するほど考えた。
〈とにかくこのままではだめだ。何もかもがあの日と同じように時が流れている。だから何とかしなければ、何とかしなければ、何とか…、よりによってぴゃーちゃんまで同じ事をやっているし。虫か何かに猫パンチを…〉
猫パンチ?
だけどその時、その「猫パンチ」という言葉が僕の心に引っ掛かった。
〈猫パンチ? ちょっと待てよ。一体何に猫パンチ?〉
そして僕の頭の中で、何かが閃いた。