エリアちゃんとデート♬

文字数 4,378文字

 ここには夏休みも宿題も無い。
 宿題が無いのはいいけれど、(地球の宿題はあるけれど…)夏休みは欲しかった。
 考えてみると僕は夏休み前日、突然セリア君によってこの惑星へ連れてこられたので、夏休みはお預け状態だった。
 でも四日程試合も無く、その間は自由行動でいいと珍しくバナナ監督が言ったので、その間はちょっとした夏休みになった。
 そういう訳でその最初の日。
 僕はスコーピオンで知り合ったエリアちゃんとデートをする為に、朝からイカルスを飛ばして(イカルスは大空は飛ばないけれど)大犬市へと向かった。
 子犬市から大犬市へと向かう道の途中には山がある。それは最初にオーラム星に来た時にセリア君とアクエリアスで上空を飛んだ。(綺麗な新紅が見えた)だけどイカルスは飛ばないから、その山を抜けるトンネルを通る必要があった。(またトンネルに縁が…)
 そのトンネルを抜けると、大犬市はすぐだった。
 それから大犬市の黄金の街並みに入り、約束していた場所でエリアちゃんと落ち逢うと、僕はイカルスを北へと走らせた。
 僕らは街の北にある「セントバーナード山」へドライブをする約束だったんだ。

 しばらく走るとその登山道路に入った。
 そこはくねくねした急な登り坂でイカルス350はそこをイカのように、力強くすいすいと登った。
 この車を買う時、セリア君が「250よりは350にしといた方がいい」と言っていたけれど、その時僕は、何となくその意味が分かるような気がした。
 で、登山道路の周囲は夏だというのに見事に紅葉していた。でもこれが「普段の色」だ。この事は、最初にオーラム星に来た時、上空からセリア君が説明してくれたのを僕はまた思い出した。
 確かに登山道路の両脇には、紅葉した色々な木々が生えていた。
 紅葉したクリスマスツリーに飾り付けをしたようにいろんな花が咲いている木とか、細い幹に巨大なカエデの葉っぱのようなのが一枚きりという不思議な木とか色々あった。
 だけどブロッコリーの木とかトランペットの木とかは見あたらなかった。
 もしかしてここにあるクリスマスツリーの木なんかはこの星の高山植物なのかな? なんて事を僕は考えた。だけど僕は植物にはあまり詳しくない。それはいいけれど、とにかく綺麗な紅葉で、僕は凄く得をした気分だった。
 だけどエリアちゃんはここへ来るのは秋がいいと言う。「緑葉」の季節だからだそうだ。
 でも、僕にとっては綺麗な紅葉。そして木々の間から見えたのは、すみれ色の「青空!」。

 登山道を登り切り、僕は大犬の街がきれいに見下ろせる駐車場にイカルスを停めた。
 そこから二人で少し歩いたらイカしたベンチがあり、そこに二人で腰を降ろした。
 山頂の涼しい風が心地よかった。
 すみれ色の空。紅葉で真っ赤に燃える山並。
 そしてこの惑星の太陽の光を受け、燃えるような黄金色に輝く街並…
 そんな風景を眺めながら、僕はエリアちゃんといろんな話をした。
 エリアちゃんの小学校の話や(エリアちゃんは小学校の先生)、僕の野球の話や(僕はプロ野球選手♪)、お兄さんのポアシ投手の話。(お兄さんはシリウスのエース)
 ポアシ投手はいつも僕の事を「凄い打者だ」と褒めているそうだった。それを聞いて僕は能天気で有頂天になりそうだったけれど、エリアちゃんはこんな事を言って、僕に釘を刺した。
「でもお兄さん〈絶対にこのままじゃ終わらないから!〉とか言って、今、新しい魔球を開発中なのよ」
 それってもしかしてやばいかも知れない。
 でも魔球なんてそんなにすぐには出来るはずないし。
 もちろん完成した暁には、僕はいつでも受けて立つ…つもりだったけれど、でもそんな事を僕に教えるのは、エリアちゃんが僕の味方だからかな?
 僕はちょっぴりうぬぼれた。
 だけど紅葉が緑葉だとか、ダイヤモンドや金やプラチナはいくらでもあって、貴金属はブリキだとか、この星では何でもかんでも地球とは真逆みたいだから、僕はやっぱり地球ではダメ選手なの?
 まあいいか。
 元々ダメ元だったし。
 それからも僕らは、いろんな話をしたけれど、最後はまた小学校の話題になった。

「エリアちゃんは小学校を卒業して、すぐに先生になったの?」
「それはそうよ。小学校の教育学部だから」
「小学校の教育学部? そんなのがあるんだ」
「小学校は途中から専門のコースに分かれるでしょ。それに普通、小学校を卒業したら仕事に就くでしょう」
「へぇ~、そうなんだ」
「へぇ~、そうなんだって…」
「うん…」
「じゃ、ダイスケ君は小学校ではどんな事をしていたの? やっぱりスポーツ専攻なんでしょ?」
「専攻も何も、僕、普通の小学六年生だけど」
「普通の小学生六年生? 何よそれ? 小学校は普通、四年生まででしょ?」
「…いや、ええとええと…まあいいじゃん。僕、田舎の小学校だから。六年まであるんだ。へへへ」
 どうやらこれ以上小学校の話題を続けると、僕はとんでもない事を言って墓穴を掘ってしまいそうな嫌ぁ~な予感がした。
 それで僕は遠くの景色を眺めながら、「綺麗な景色だね」とか言って、そして話題を変える努力を始めたんだ。

 そのとき僕は、本当に話題を変える為に、遠くの景色を見た。
 だけど「嫌な予感」が頭にこびりついていたそのときの僕は、何故かその景色が、僕の心に引っかかってしまったんだ。
 何故だか分らないけれど、この景色が僕に何か意外なものを連想させてしまったんだ。
 それは…

 紅葉で真っ赤に燃える山並みは、炎に包まれた山みたい。
 この星の太陽の光を受け、燃えるような黄金色に輝く街並は、炎に包まれた街みたい。
 地球じゃこんな光景、あり得ない。
 もしあるとしたら…

 何故だか分らないけれど、その時僕はテレビで見た、戦争の光景を思い出してしまったんだ。
 何故思い出したのか、僕には分らないけれど、こんな光景、地球では戦争以外にあり得ない。
 空襲で炎に包まれた街並み。
 逃げ惑う人々…
 考えてみると地球じゃ今も恐ろしい事が次々に起こっているんだ。
 だけどここの街は「炎」に包まれていても、ここには戦争はない。
 オーラム星は「永遠の平和」だった。
 平和っていいな。
 そうだ。平和だ! 
 そう考え妙に納得した僕は、エリアちゃんにこんな事を言った。

「エリアちゃん。平和っていいよね」
「何? ヘイワって?」
「平和って、戦争がない事だよ」
「センソウって、何?」
「え?」
「私、そんな言葉、聞いた事ない」
「ええと、一億年前にオリーブ星人がオーラム星を…」
「オリーブ星人って?」

〈そうだったんだ! オーラム星の人たちは、「戦争」とか、「平和」という言葉そのものをを知らなかったんだ。一億年前にオリーブ星人がこの星を平和にした事も知らないんだ。きっとそうだ。そして一億年も戦争が無ければ、「戦争」とか「平和」とかいう言葉は死語になるのではないだろうか。だから平和のリレー作戦の事は、セリア君たちごく一部の人しか知らないのでは…〉
 それで僕は「平和」の話題を緊急停止した。

「いや…、何でもないよ」
「ダイスケ君って不思議な人ね。学校の事とかあまり知らないかと思えば、センソウとかヘイワとか不思議な言葉をいっぱい知っているし。何だか遠い星から来た人みたい…」
〈遠い星から来た人…〉
 その「遠い星」を聞いた僕はハッっとした。
 やっぱりエリアちゃんには本当の事を言わなければいけないのでは?
 そのとき僕はそう思い始めたんだ。
 だってこのままデートを続けたとしても、きっといつか僕がこの星の人間ではないという事が分かってしまうだろう。
 だからいつまでも隠している訳には…

 それで少し考えてから、僕はエリアちゃんに、思い切って本当の事を言う決心をした。
 綺麗な景色だけど、何故か僕に戦争を連想させた遠くの景色を見つめながら、僕はエリアちゃんに、思い切ってこう言ったんだ。

「エリアちゃん。実は僕…本当はサファイア星人なんだ!」
「あははは。やっぱりその冗談、ダイスケ君たちの間でも流行っているの? 私の小学校の生徒たちの間でも大流行よ。〈俺様はサファイア星人だぞ!〉だって!」
 人が真剣に打ち明けたのに「流行りの冗談」と勝手に決め付けられちゃった。
 何だか拍子抜け。〈もういい!〉
 それで僕も口裏を合わせた。
「へぇ~、そうなんだ。僕らプロキオンズの間でも大流行だよ。ははは!」
「ねえ、この奥に綺麗な散歩道があるから、そこを歩きましょ」
「そうだねそうだね」
〈もっと綺麗な場所があるのか。やった! エリアちゃんと手を繋いで散歩しよう♪〉
 僕はとても現金なもので、あっさりとウキウキ気分に戻った。
 でもそのとき、いきなりエリアちゃんの携帯が鳴った。

「…いけない! すっかり忘れていた!」
 エリアちゃんの驚いた表情に、僕は一気に不安に陥れられた。
 そしてその不安は見事的中した。
 何でもエリアちゃんは小学校の行事で、子供達をキャンプに連れて行く予定だったらしい。
 ところがエリアちゃん、いや、エリア先生が来ないので、学校の人が心配して電話を掛けたそうな。
 何という事でしょう!
 
 それで僕は愛車のイカルスを緊急発進。
 大急ぎでエリアちゃんを大犬小学校まで送る事になった。
 そういう訳でその日のデートはおしまい。
 僕はデートが中断され、最高に気分が悪かった。
 よりによって、キャンプの事を忘れていたなんて! 
 しかもせっかく僕がサファイア星人(地球人)だと打ち明けたのに、流行りの冗談だと決め付けられるし!
 それから僕はエリアちゃんを大犬小学校の正門前で降ろし、そして最悪の気分で大犬の街をイカルスで走った。
 黄金の街並みが空襲の街並みのように感じられ、僕はそれから逃れるようにイカルスを走らせ、一目散にトンネルへと逃げ込んだ。
 トンネルに入ると、昔おばあちゃんから聞いた防空壕の話を思い出し、とても怖くなった。

 やっとの思いで寮の部屋へ帰ると、机の上にあったエリアちゃんと一緒の写真が目に入った。
 僕はデートが中断された事を思い出し、さらに気分が悪くなった。
 それで僕はベッドに入り大の字になると、性懲りも無く得意のふて寝をする事にした。
 寝るとき部屋のドアを開けておいた。
 時々ひんやりとした風が入って来て、とても心地よかった。
 その風で僕はつい先程までいたセントバーナード山頂を思い出した。
 するととても清々しい気持ちになり、いつのまにか僕の魂は山頂に戻っていた。
 そして綺麗な景色を眺めていると、突然僕の横にエリアちゃんが現れ、僕にほほ笑んだ。
 もしかして、キャンプは中止? 
 だけどエリアちゃんが「ねえ、ダイスケ君」と、何故かギューリキ君の声で話し掛けたので、僕はぶったまげて目が覚めた。
 そしてそこにいたのはギューリキ君だった。

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