ギューリキ君何の用だ?

文字数 2,056文字

 彼は牛のようにぬーっと立っていた。
 かわいい小さな目をぱちぱちさせいて、そして僕をいきなり厳しい現実に引き戻したんだ。
 エリアちゃんからいきなりギューリキ君だし。
 だからその落差に、僕は豪快に絶望した。
 そういう訳で僕が浮かない顔をしていると、何故かギューリキ君も浮かない顔をしていた。
 何だか僕に何かを相談したそうだった。
 それで僕は言った。

「キューリキ君、一体どうしたんだい?」
「スランプだ。全然打てなくなっちゃった」
「へぇ~」
「へぇ~じゃないよ!他人事みたいに!」
「そう怒るなって」
「だけど多分、僕は今シーズンでクビだ。田舎へ帰ったら何と言われる事か…」
「田舎へ帰ったら何と言われる事かって?」
「そうだ。僕が田舎を出る時、町長さんだって、お見送りに駆けつけてくれたんだぞ!」
「町長さんも?」
〈僕が地球を離れる時はぴゃーちゃんがお見送りをしてくれたのだった…〉
 それはやけに聞き覚えのあるデジャブな話だったけれど、考えてみると、それはスコーピオンでのエナッツ君の話と瓜二つだ。
 しかもそれには「素晴らしい解決法」まで付いていた。
 それで僕は提案した。
「だったらいい考えがあるよ」
「いい考え?どんな考え?」
「肩を壊すんだ!」
 僕はエナッツ君から聞いた事をあらいざらい話してあげた。二十万球投げた話も。
 だけどギューリキ君は、
「その話なら僕も知っているよ。有名な話だから。だけど僕、ピッチャーじゃないし」
「そうか。壁投げって訳にもいかないもんな。だけどギューリキ君は怪力だから、本当に壁、投げられちゃったりして…」
「僕がえいや~って、壁を投げるのか?」
「そうかも」
「バカな事言わないでくれよ。そんな事したら、室内練習場が破壊されてしまうよ」
「あはは、ごめんごめん。冗談冗談。あっ、そうだ。じゃぁティーバッティングってのはどうなんだ? 二十万球打つんだ。幸いにもそれって一人で出来るし」
「で、一人でもくもくと二十万球も打ったら、どこか壊れるかな?」
「絶対に壊れるって」
「本当?」
「もちろんさ。それに運が悪かったら、バッティングが良くなって、スランプから抜け出してしまうかもしれないし…」
「カーブとかも打てるようになる?」
「かもね」
「そうか! しかも不幸にもそれがバナナ監督にバレちゃったら…」
「だろう。それってヤバいいいアイディアだろう?」
「うんヤバいよ。よし。早速今夜から実行するよ」
 そういう訳でギューリキ君は小さな目を輝かせながら、大きな体をどたどたと揺らしながら、僕の部屋のドアを豪快にバタンと閉め、風のように颯爽と出ていった。
 大男が風のように颯爽と出て行った関係上、大風が発生し、バタンとドアを閉めた振動も相まって、とにかくそういういきさつで、棚の上のエリアちゃんからもらったキーホルダーが床に落ち、それが目に入った僕はデートが尻切れトンボになった事をまたまた思い出し、またまた嫌な気分に戻り、そのままベッドにごろんと寝ころぶと、またまた性懲りも無くふて寝の続きをする事にした。

 太陽が木星を連れて、アルファセンタウリの星たちの所へ遊びに来て、五つ仲良く並んですみれ色の空で輝いていた。
「やい木星、お前、いつの間に一人前に光ってんだぁ?」なんて、末っ子のプロキシマが偉そうに木星に言っていた。
 その時僕は、どこかの惑星で砂漠の冒険中だった。
 それにしても物凄い暑さだ。何たって大小五つの恒星(太陽みたいな星)が嫌みったらしく輝いていたのだから。
 それであまりの暑さに頭に来た僕は、
「やいてめ~ら、いつまで光ってんだ。いいかげんにしやがれ!」と怒鳴ったら、またまた目が覚めた。
 窓からは五つではなく、大小二つの西日が輝いているのが見え、部屋の中は恐ろしく暑くなっていた。
 だいたいギューリキ君が豪快にドアを閉め、風のように颯爽と出ていったからだ!
 そこで僕は早速、枕元に置いてあったエアコンのスイッチを入れた。
 こちらのエアコンは旅客機の翼の下に付いている「ターボファンエンジン」みたいで、凄くかっこいい。しかも水筒くらいの超小型で持ち運び自由で、しかもしかもそれがイカした台座に乗っているんだ。
 しかもしかもしかも発電式だ!
 発電式というのは部屋の温度を吸収し、それが冷房になり、しかも吸収したエネルギーで発電もしちゃうという優れものだ。
 セリアくんの話では、多分これは銀河系宇宙では最初の「熱力学の第二法則」を打ち破った機械だそうだ。知らんけど。
 それはともかく、スイッチを入れると飛行機のエンジンみたいなキーンという涼しげな音が静かに唸り、エアコンが効き始めた。
 そして二、三分で思い切り部屋は涼しくなった。
 涼しくなるとエリアちゃんとのデートが消滅した嫌な気分は、最初が十としたら三くらいに良くなっていた。
 そして涼しくなった部屋で、僕はベッドに寝転んだまま、いろんな事を考え始めた。
 何たって考え事は僕の得意技だし。
 そしてその考え事の最後に、僕はある一つの画期的な考えにたどり着く事となる。
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