第10話
文字数 2,328文字
※お読みになる前に…この物語はフィクションです。心霊に対する見解や解決方法はすべて想像上のものとなりますので、現実において参考になさらぬ様にご注意下さい。
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十夜は黒い影の正体について考えた。
1.部屋に住み着いた霊が何かのキッカケで覚醒した。
2.榛名の影響でそういうのを呼び寄せてしまった(1.もキッカケとしてはそう)
3.考えたくないが、大崎くんの元カノの片鱗。全体ではなく、何%とかそういう感じ。嫌な意味でのおこぼれ的な。(割木の話を聞いたことで影響が出た)
バイト先で黒崎に事の次第を説明した。
有難いことに黒崎は、「黒崎さん」と声を掛けてきた十夜を見た瞬間、察してくれた様に見受けられた(もしかすると、能力者の場合その前から感じ取っているかもしれない)。
ただ、黒崎は相手を怖がらせない様に、相手から依頼がない限り余計なことは言わないのがポリシーなので、十夜から「実は」と相談内容を口にするまで黒い影のことは気付かないフリをしてくれていた様だ。
また、黒崎に会った際に影はスッと消えたそうだ。
黒崎曰く、
「榛名さんの影響ではなさそうです。部屋に棲みついた霊でもないと思います。おそらく生霊かと」
「3.かぁ。意外とこの世には生霊が多いんですね。どうすれば居なくなるんでしょうか」
妙なところで冷静なコメントをしたものの、十夜は頭を抱えた。
「たとえば、ほんのちょっとすれ違った人間が水原くんに興味を持った場合に生霊になる、なんて事も念の強い相手だと起こりえます」
「そんな事ってあるんですか!あの、今回の相手って言うのも変ですけど、大崎くんの元カノですか?」
十夜は気になっていたことを黒崎へ質問した。
「……」
黒崎は黙って考えている。
黒崎はしばらく考えたあと、
「水原くんは防衛本能が結構お強いと思うんですよ」
と伝えた。
「はい……そうかもしれません」
十夜は話の展開の行方が気になった。
「おそらく、現実に相手と接した時に違和感を感じるのではないか、と推察します」
正体は誰かは判らないのか、判っていて教えられないのか。
十夜はおそらく後者だと思った。それこそ本能で感じ取った。
黒崎はそう言うと、「少々お待ちを」と言い残して席を立った。
今日は作業のために小さめの会議室を使用しており、今そこには十夜と榛名しかいない。
「ほら、私のせいじゃなかった」
と榛名が不貞腐れる。
「すみません」
十夜も本音の深いところでは榛名の影響ではないと思っていた。それも防衛本能の一種なのかもしれない。
ただ、榛名の影響で霊感的なものが強くなっているかもしれないとは考えたことがある。
防衛本能に磨きがかかったのか?
黒崎が戻ってきてた。
「これを身に着けておいて下さい」
と言ってお守りの様な小さな布袋を十夜に渡した。
「中身を開けてはいけませんよ」
そう言って顔色の悪い笑顔を向けた。
十夜は一瞬引きつったが、
「ありがとうございます。助かります」
と言ってありがたく受け取った。
黒崎は榛名をちらりと見、榛名も黒崎の視線に気づいたようだ。
「本当は、榛名さんもその影には近寄らない方がいいんです。巻き込まれて飲み込まれない様に気をつけて下さい」
「ひぇっ。あいつグイグイ来るんだけど」
榛名がぴょんと飛び上がった。
その黒崎の言葉を聞いた十夜は、
「飲み込まれると本体に戻れないかもしれないってことですか?」
と焦りながら質問した。
黒崎は頷き、
「榛名さんはこっちに来た時は、水原くんからあまり離れないようにして下さい」
最後に十夜はやはり気になったので聞いてみた。
「正体は教えてもらえないのでしょうか」
そう言うと黒崎は、十夜を怖がらせない様にと思ったのか、少し表情を柔和にして説明した。
「事と次第によってはお伝えする事もあります。ただ今回に関しては、意識すると相手を喜ばせるだけの様な気がします。生霊になった人間は潜在意識ではとりついている間の水原くんのプライベートを見た記憶が残ります。水原くんが相手が誰かを知れば、それは相手の知るところにもなります」
十夜はゾクッと震えた。
そして生霊に対して、怖さもあったが、生身ではないとは言えプライベートを勝手に覗き見てくる事に対して段々と腹が立ってきた。
十夜が生きる上で必要なのは、プライバシー、デリカシー、セキュリティなのだ。
それをどこの馬の骨とも知れぬ輩が勝手に土足でズカズカと踏み込んでくることに対して許し難い怒りを感じた。
「おお、水原くん怒ってますか?」
黒崎が慌ててフォローする。
「いえ、違うんです。黒崎さんに対してじゃないんです。生霊に。プライベートを勝手に見やがってと」
すみません、と黒崎に謝り、丁重に礼を伝えて十夜は作業に入った。
翌日の朝、1限の講義室に学生たちがワラワラと集ってきた。
早めに席に着いていた十夜が、田丸は今日は珍しく遅いなと思っていると、スマホにメッセージが入った。
田丸は今朝、家を出る前に急に腹痛に襲われ、まだトイレの住人との事だ。
(可哀想に。気の毒すぎる)
十夜はノート等は今度見せるから、無理しない様、くれぐれもお大事にと返信をした。
(今日は1人か)
十夜はちょっとの寂しさを感じた。
するとそこへ、
「おはよう、水原くん」
「あ、割木さん。おはよう」
割木が今日も声を掛けてきた。
「田丸くんはまだ来てないの?」
割木が十夜の周りを見てそう聞いてきたので、田丸は腹痛で今日は多分休みだと思うと伝えた。
「そっかー。じゃあまた」
そう言って割木は友人と思われる女子達の中に「おはよー」と入って行った。
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十夜は黒い影の正体について考えた。
1.部屋に住み着いた霊が何かのキッカケで覚醒した。
2.榛名の影響でそういうのを呼び寄せてしまった(1.もキッカケとしてはそう)
3.考えたくないが、大崎くんの元カノの片鱗。全体ではなく、何%とかそういう感じ。嫌な意味でのおこぼれ的な。(割木の話を聞いたことで影響が出た)
バイト先で黒崎に事の次第を説明した。
有難いことに黒崎は、「黒崎さん」と声を掛けてきた十夜を見た瞬間、察してくれた様に見受けられた(もしかすると、能力者の場合その前から感じ取っているかもしれない)。
ただ、黒崎は相手を怖がらせない様に、相手から依頼がない限り余計なことは言わないのがポリシーなので、十夜から「実は」と相談内容を口にするまで黒い影のことは気付かないフリをしてくれていた様だ。
また、黒崎に会った際に影はスッと消えたそうだ。
黒崎曰く、
「榛名さんの影響ではなさそうです。部屋に棲みついた霊でもないと思います。おそらく生霊かと」
「3.かぁ。意外とこの世には生霊が多いんですね。どうすれば居なくなるんでしょうか」
妙なところで冷静なコメントをしたものの、十夜は頭を抱えた。
「たとえば、ほんのちょっとすれ違った人間が水原くんに興味を持った場合に生霊になる、なんて事も念の強い相手だと起こりえます」
「そんな事ってあるんですか!あの、今回の相手って言うのも変ですけど、大崎くんの元カノですか?」
十夜は気になっていたことを黒崎へ質問した。
「……」
黒崎は黙って考えている。
黒崎はしばらく考えたあと、
「水原くんは防衛本能が結構お強いと思うんですよ」
と伝えた。
「はい……そうかもしれません」
十夜は話の展開の行方が気になった。
「おそらく、現実に相手と接した時に違和感を感じるのではないか、と推察します」
正体は誰かは判らないのか、判っていて教えられないのか。
十夜はおそらく後者だと思った。それこそ本能で感じ取った。
黒崎はそう言うと、「少々お待ちを」と言い残して席を立った。
今日は作業のために小さめの会議室を使用しており、今そこには十夜と榛名しかいない。
「ほら、私のせいじゃなかった」
と榛名が不貞腐れる。
「すみません」
十夜も本音の深いところでは榛名の影響ではないと思っていた。それも防衛本能の一種なのかもしれない。
ただ、榛名の影響で霊感的なものが強くなっているかもしれないとは考えたことがある。
防衛本能に磨きがかかったのか?
黒崎が戻ってきてた。
「これを身に着けておいて下さい」
と言ってお守りの様な小さな布袋を十夜に渡した。
「中身を開けてはいけませんよ」
そう言って顔色の悪い笑顔を向けた。
十夜は一瞬引きつったが、
「ありがとうございます。助かります」
と言ってありがたく受け取った。
黒崎は榛名をちらりと見、榛名も黒崎の視線に気づいたようだ。
「本当は、榛名さんもその影には近寄らない方がいいんです。巻き込まれて飲み込まれない様に気をつけて下さい」
「ひぇっ。あいつグイグイ来るんだけど」
榛名がぴょんと飛び上がった。
その黒崎の言葉を聞いた十夜は、
「飲み込まれると本体に戻れないかもしれないってことですか?」
と焦りながら質問した。
黒崎は頷き、
「榛名さんはこっちに来た時は、水原くんからあまり離れないようにして下さい」
最後に十夜はやはり気になったので聞いてみた。
「正体は教えてもらえないのでしょうか」
そう言うと黒崎は、十夜を怖がらせない様にと思ったのか、少し表情を柔和にして説明した。
「事と次第によってはお伝えする事もあります。ただ今回に関しては、意識すると相手を喜ばせるだけの様な気がします。生霊になった人間は潜在意識ではとりついている間の水原くんのプライベートを見た記憶が残ります。水原くんが相手が誰かを知れば、それは相手の知るところにもなります」
十夜はゾクッと震えた。
そして生霊に対して、怖さもあったが、生身ではないとは言えプライベートを勝手に覗き見てくる事に対して段々と腹が立ってきた。
十夜が生きる上で必要なのは、プライバシー、デリカシー、セキュリティなのだ。
それをどこの馬の骨とも知れぬ輩が勝手に土足でズカズカと踏み込んでくることに対して許し難い怒りを感じた。
「おお、水原くん怒ってますか?」
黒崎が慌ててフォローする。
「いえ、違うんです。黒崎さんに対してじゃないんです。生霊に。プライベートを勝手に見やがってと」
すみません、と黒崎に謝り、丁重に礼を伝えて十夜は作業に入った。
翌日の朝、1限の講義室に学生たちがワラワラと集ってきた。
早めに席に着いていた十夜が、田丸は今日は珍しく遅いなと思っていると、スマホにメッセージが入った。
田丸は今朝、家を出る前に急に腹痛に襲われ、まだトイレの住人との事だ。
(可哀想に。気の毒すぎる)
十夜はノート等は今度見せるから、無理しない様、くれぐれもお大事にと返信をした。
(今日は1人か)
十夜はちょっとの寂しさを感じた。
するとそこへ、
「おはよう、水原くん」
「あ、割木さん。おはよう」
割木が今日も声を掛けてきた。
「田丸くんはまだ来てないの?」
割木が十夜の周りを見てそう聞いてきたので、田丸は腹痛で今日は多分休みだと思うと伝えた。
「そっかー。じゃあまた」
そう言って割木は友人と思われる女子達の中に「おはよー」と入って行った。