第15話

文字数 15,514文字

 丘佐紀さん攻略のためには、それなりの資金が必要だ。
タイムリープによってこれまで貯めてきた貯金が底を尽いた、今の僕ならなおのこと。
だからといってその点ばかりに執着していては、思いも寄らない事態に巻き込まれてしまう可能性があることを、僕はこの身を持って思い知ったばかりだ。
なので、やって来たこの時間軸においてはその点に留意して行動しよう。
とりあえず、トラウマ確定の記憶が強く芽生えた深夜のコンビニバイトからは足を洗った。
収入的には落ちることになるけれど、バッティングセンター1本でバイトは当面賄うことにしたのだった。
 
 ~2005年4月10日~
 ストーカー野郎との出会いイベントを阻止した直後に戻ってきた僕は、初めての日曜日を迎えていた。
今日は夕方からバッティングセンターのアルバイトが入っているが、それまでの時間を有効に使うべく、携帯電話を手にして丘佐紀さんとのメールに興じていた。
「やっと週末が来たよ~。仕事に疲れていたからなのかな、今まで寝ちゃってたよ~」
「疲れてたんだねぇ。無理しちゃダメだよ、体は大切にね。」
「ありがとう!今日はバイト?」
「うん、17時から。」
「がんばってね♡」
甘い、実に甘いやり取りだと我ながら思う。
世間話の延長にすぎないメールとはいえ、どうして彼女の文脈にはこうも愛しさを感じてしまうのだろうか?
このメールだけで、今日のバイトがどれだけ困難を伴うキツイものになってしまったとしても、僕は余裕で乗り切れる気がしてくるから不思議だ。

 ~2005年4月19日~
 世間一般の新生活が始まってしばらくしたこの時期、丘佐紀さんは忙しいらしい。
それでも着実に彼女との信頼関係を構築していっている僕に向けて、忙しい合間を縫っての連絡が途絶えることはないのは良い兆候だった。
メールの送受信においてのタイムラグもそこまで大きくなることはなく、彼女が眠りにつく前には短い時間とはいえ電話をかけてきてくれることもしばしばだ。
上司への愚痴や配属されてきた新社会人との間で起こったその日の出来事、利用客とのちょっとしたトラブルなどなど、丘佐紀さんは僕にストレスを吐き出すことで、安心して眠りにつけるという習慣が構築されつつあった。
 彼女が抱えた痛みや心の重荷を僕にぶつけることで晴れるのならば、お安い御用だ。
僕には取り立ててマゾ気質やサド気質といった偏った属性はないものの、少し怒ってみせたり落ち込んだ様子だったり、感情の起伏に富んだ様々な丘佐紀さんの声を聴けて、正直悪い気はまったくしなくて、それどころかうれしささえ感じていた。
何よりも彼女の声が聴けて、飾らないままの等身大の彼女に触れられることが幸せで仕方がなかった。
 聞き役に徹して、若者特有のがっつく前のめりな感じを出さないように心がけて応じることは変わらず、アピールするというよりはまず僕という人間を知ってもらい、彼女に信頼してもらうことに重きを置いて、コツコツと積み上げている只中の日々。
伊達に何度もやり直してきたわけではない、確かに失ったものは多いしそれらが戻ってくることだってない、だけど引き換えに経験してきた日々が僕の血となり、体験してきた数々の苦い記憶が肉となって今僕はここにいる。
もうやり直さなくていいように、残酷な瞬間を目にすることがないように・・・・。

 ~2005年4月27日~
 もちろん丘佐紀さんばかりに構っているわけではない、大沼さんとのやり取りも途絶えないように、気を配っていた。
肝心なのはどちらかに偏って一方をないがしろにすることなく、それでいてかけるべき比重を見誤らないことだろう。
 過去の時間軸、決して忘れることのできないあの時。
僕は大沼さんの方に比重を傾けすぎてしまった結果、丘佐紀さんをストーカー野郎にむざむざと殺されてしまうという、取り返しのつかない大罪を犯してしまった。
あの時の大沼さんが僕に抱いていた感情の詳しい色は、今となっては計り知れない過去の幻影なのだけれど、少なからず好意を抱かれていたことは確かで、僕もその事実に悪い気はしていなかった。
だが好事魔多し、二兎を追う者は一兎をも得ずである。
丘佐紀さんを失ってしまって初めて、僕は大沼さんに傾き始めていた自分の心の脆さと、男の性とも言える意志の弱さを痛感した。

「僕が愛しているのは今も昔もこれから先も、丘佐紀さんただ1人」

 大沼さんからはこの時間軸においても、メールも来れば電話もかかって来ていた。
邪険にするつもりはないし、僕の力を求められればきっと応えもするだろう。
けれど見失ってはいけない、僕自身の進むべく方向と目指すべき未来を。
「丘佐紀さん8:2大沼さん」、僕の中で定めた絶対比。
身勝手と言われるかもしれない女たらしと罵られるかもしれない、それでも己が定めた掟は鉄のように強固で真っすぐに。

 「もしもし大沼さん、どうしたの?」
「奔瑚君、明日暇?」
「うん、暇と言えば暇だけど・・・・」
「よかった!!じゃあショッピングに付き合ってくれない?」
「もちろん・・・」
待った待った、それ流されているって!!
「・・・ごめん、ちょっと大学の課題が貯まっててさ・・・。」
「・・・そうなんだ、がっかり・・・。」
「ごめんね、今度また埋め合わせするからね。」
時にはウソを用いてでも、志を貫徹させなければならない。
心を鬼にして大沼さんからの誘いの電話を切り終えた後、だけど僕の心に少し虚しさが募るのは何故なのだろうか・・・・・・?

 ~2005年5月8日~
 ゴールデンウイークをバッティングセンターのバイトで連日開店から閉店まで働き倒した僕、それはこの日に休みをもらうためであり、血と涙の結晶だった。

 ゴールデンウイーク直前のある夜、丘佐紀さんから送られてきたメールが始まりだった。
「映画のチケットをもらったんだけど、一緒に行ってくれない?」
過去には僕も同様の誘い文句を使って、彼女との映画デートをしたことがあった。
何度も繰り返しやり直してきて埋もれていた記憶の片隅から、そんなこともあったなぁと感慨深く思い出された。
 でも今回はその時と似ていて、大いに非なることだ。
誘う側の人物が入れ替わるだけで、内容は同じだとしても、そこに含まれ持つ意味合いはまったくもって異なるのだ。
紛れもない彼女からの映画デートの誘い、数行のメールの文章を目にした僕は興奮して発狂しそうになってしまう。
 とりあえず「行く」という意思を込めた返信をしたら、「今から電話をかけてもいい?」と間髪入れずにメールが返って来た。
「ゴールデンウイークは家族で旅行に行くことになってしまっているから、連休明けの日曜日とかはどう?」
おっと、それはちょっと困ったぞ。
丘佐紀さんが指定してきた日曜日は、朝から終日バイトが入っていて無理だ。
だけど、せっかく誘ってくれたのに無理とは言えないし、日時を延期してもらったとして先延ばしになったまま、結局自然消滅なんてことになるかもしれない。
何より僕は丘佐紀さんと映画に行きたくて行きたくて、本能がうずいて仕方がなかった。
「・・・大丈夫大丈夫、その日で全然問題ないよ。」
「本当?良かった~、じゃあ詳しいことはまた連絡するね!!今から楽しみ~!!」
通話を終えて、「僕も楽しみ~!!」で心が躍るのだったが、バイト先にシフトの調整を申し出ることを思うと、若干気が重たくもなった。
 
 翌日大学の講義の途中に抜け出した僕は、朝10時の開店時間を迎えた瞬間バイト先のバッティングセンターに電話をかけて、丘佐紀さんと約束した日曜日を休めるように申し出た。
土曜日・日曜日はかき入れ時のため人手を確保したいバイト先としては、僕に休まれると困るという返事が返ってきて散々渋られたのだが、粘り強く交渉を続けた結果、ゴールデンウイークの大型連休のすべての日に、開店から閉店までの12時間勤務することで落としどころが何とか見つかった。
1人の従業員に休まれると、他の従業員のシフトや都合と照らし合わせて調整しなければならなくなる、経営陣側の意見はもっともだと思う反面受け入れたが、連日12時間勤務とはいささかブラックじゃあないかと思わなくもなかった。
だがそれも、丘佐紀さんとデートするためだと思えば何てことはない。
僕は「ブラックバイト上等!!」と、若さゆえの持て余した体力と情熱を持って、地獄の連日労働を乗り切ったのだった。

 約束した待ち合わせ場所の映画館は、僕がいつかの時間軸でデートをした時と同じ場所だった。
ショッピングモールが併設されている大型の商業施設の中の一区画、早く来すぎた僕は入り口の前で結構な時間待っていた。
立ち尽くして待っている僕の全身は、あちこち筋肉痛がひどかった。
だけどそれは丘佐紀さんに待たされているからではなく、この日のために働き詰めだったバイトで酷使されたことが原因だった。
時々伸びをしたりして体勢を変える度に、骨は軋んだような音を立てて、筋肉は切れてしまうのではないかというくらいの痛みと共に、反対側へと引っ張られる感覚。
ひきつりそうになる僕の表情、しかし丘佐紀さんの前では絶対に見せてはいけないものだ。
 優しさと慈愛に満ちた彼女の前で、迂闊にも苦痛に歪んだ表情を見せてしまおうものならば、きっと余計な心配をさせてしまうに違いなかった。
過去の暗い体験から、丘佐紀さんの表情を曇らせてしまう事態は、原因の大小に関わらず僕の中ではタブーなのだ。

 午前9時35分、約束の時間より30分近く前だというのに、丘佐紀さんは僕の姿を捉え駆け足で近付いて来る。
が、彼女の履いていたヒールが、マンホールと敷地内の地面の段差との隙間に挟まってしまい、目前にして立ち往生してしまっていた。
僕は急いで彼女の元へ駆けつけて、不安定になりがちな体を支えた。
「大丈夫?」
「うん、大丈夫・・・・」
と答えたものの、異性に失態を見られてしまったことへの恥ずかしさなのか、丘佐紀さんは僕から俯きがちに視線を少し逸らしてしまっていた。
「転んじゃうよ、掴まって。」
けれどそんな恥じらう姿も可愛いと言えば嫌われてしまうだろうか、さておき僕は肩を差し出すように落ち着いた口調で促した。
「・・・・ありがとう・・・・。」
まだ顔の赤みは消えていないけれど、言われるままに僕の肩に掴まった丘佐紀さんはバランスを取り戻し、ヒールが刺さったままの脚に力を込めて抜け出すことに成功した。
「・・・・・・・・・。」
スカートの乱れを直しながら、彼女は無言のままに僕を見つめてきた。
「ケガしなくて良かったよ。」
その視線に僕は真っすぐに本音を語って返してみせた。
「・・・・・・・・・。」
丘佐紀さんの表情からは少し戸惑いと恥じらいが消えて、また違った感情を含んだ視線に変わっていった。
「とりあえず、中に入ろうか。」
努めて平静を装った僕が館内への移動を提案すると、丘佐紀さんは気を取り直すかのように控えめな笑顔を見せて答えてくれた。
「うん。」

 映画館の中へと入った僕たちは、丘佐紀さんが用意してくれたチケットに該当する映画の上映時間を確認していた。
映画に誘われたことだけで胸がいっぱいになっていた僕は、ここで初めてこれから見る映画のタイトルと大まかな内容を知ることになった。
巷で話題に上がっているラブストーリーで、僕1人ではまず見に来ることがないジャンルのようだ。
幸いなことに、もう間もなく上映が開始されるらしく、僕たちはお互いの飲み物と大きなバケツみたいな容器に入れられたポップコーンを1つ買って、指定された席を目指してそぞろ歩いて行った。
 映画館特有の少し照明が落とされた薄暗い印象を受ける座席を移動して、お目当ての席へとたどり着いた僕たち。
後方の位置の列の中のちょうど真ん中辺りの隣り合った席、映画を見るには最適な距離感の座席と言えるだろう。
だけど丘佐紀さんと隣り合った席に座った僕は、果たして映画の内容が頭に入ってくるだろうか?
 そんな僕の危惧を知ってか知らずか、丘佐紀さんは鞄を膝の上に置き飲み物を固定し終えると、こちらを振り向き話しかけてきた。
「いいタイミングだったね。」
「そうだね。」
「それに日曜日なのに、思ったよりも混んでないみたい。」
「そうだね。」
「この映画見たかったから、実はすごい楽しみなんだぁ~」
「そうだね。」
王道的なラブストーリーらしい作品の上映を目前に控え、恋に恋する少女の瞳で話してくる彼女に対しての僕の返答ときたら、お昼の長寿番組に観覧に訪れた観客のようではないか。
デートだと意識すれば些細なことにも過敏になってしまう、ここは無心、無我の境地になるべきだ。
 
 やがて定刻となり、さらに館内の照明が落とされたのを合図にして、スクリーンにはスピーカーからの大音量と共に、映像が映し出されていった。
上映前のお決まりの、CMが延々と流れている。
僕も丘佐紀さんもスクリーンに目を向けたままで、時折言葉を交わしていた。
マナーの観点からひそひそと小声で囁き合う言葉の掛け合いは、いたって平凡なことを話しているにすぎないというのに、どこか密談めいていて艶めかしさを感じてしまうのは僕だけか。
 切れ目なく流れ続けていたCMもようやく終わりを迎え、いよいよ映画の本編が始まった。
その内容は愛し合っている恋人同士に様々な試練が襲いかかるも、手を取り合い絆を強くしていき乗り越えていくといった、「ど・ストレート」なものだった。
正直僕には今一つしっくりこないストーリーなのだが、丘佐紀さんにとっては違うようだった。
控えめでおしとやかな彼女のことだから、喜怒哀楽を前面に出して感情を表現するようなことはしなかったが、うっすらと涙を浮かべたり感銘を受けていることは伝わってきた。
気が付けば僕は正面のスクリーンよりも、横目で悟られないように丘佐紀さんを見ていることの方が圧倒的に多くなっており、映画よりも彼女のリアクションの1つ1つに夢中になって胸をときめかせてしまっていた。
 映画も後半に入り、クライマックスに向けての布石の回収段階といったところだろうか。
この作品は当然の如くフィクションであり想像の産物だ、だからというわけではないけれど、僕には見れば見るほど現実味が薄れてきて、退屈で虚しくさえあった。
というのも、僕がこれまで歩んできた時間の流れの中での体験の数々の方がよっぽど刺激的で、かつドラマティックな展開だったからなのかもしれない。
すべてが失敗に終わってしまった悲劇だったからこそ、その場で味わった痛みも深く現実味は罪作りに色濃く残っていた。

 「・・・・・・・・・。」
そうしていよいよ、主人公がヒロインへと告白するシーンになった時だった。
右隣の丘佐紀さんの方から、僕の右半身に温もりとかすかな重みが伝わってきた。
「!?」
びっくりして動揺を隠しきれない僕は、突如として首から下が固まってしまった状態の中で、顔だけを丘佐紀さんの方に向けて状況を確認してみた。
 すると視線はスクリーンを捉えたまま、丘佐紀さんが僕の方に身体を傾けて寄り添ってきているではないか!!
ななななななな、どどどどどどどど、ふおぉぉぉーーーーー!!
錯乱していく脳内から言葉にならない奇声が漏れ出てしまいそうになるが、口を堅く引き結んで何とか阻止した。
だがでもしかし、これは一体どういうことだ!?
丘佐紀さんって、こういう行動を取るような娘だったけっか!?
いんや、いくらこの映画に感情移入してしまったとしても、ここまでの大胆な行動に出るとは考えにくい!!
ということは、彼女のこのアクションには別の意味合いが含まれているのか!?
落ち着け、とにかく落ち着くのだよ僕よ!!
 再度丘佐紀さんの方に目をやって観察してみると、視線こそスクリーンに釘付けになってはいるが、その表情には映画に感化されたというよりは、意を決して行動に出たという緊張が滲み出ているじゃあないか!!
ということは、そこから察するに、これは彼女からの僕に対する何かしらのアプローチだと考えるのが妥当だろう!!
 男として、僕は彼女の勇気を振り絞ったであろう行為に応えなければならない。
僕は恐る恐るひじ掛けの上に置かれていた丘佐紀さんの手のひらを目掛けて、自分の右腕を伸ばしていこうとした。
しかし、僕の右半身は今、丘佐紀さんに寄りかかられていることと、緊張からくるパニック状態で思うように動かすことができない。
それでもここが僕の腕の見せ所、小刻みに震える腕に力を込めて少しずつでも動かしていった。
ちょっとずつ、あと少し、僕が手を伸ばしたその先に、彼女の柔らかな手のひらがある。
身をよじるように懸命な僕の手が、丘佐紀さんの手に触れかけたその矢先、突然僕の肘に衝撃が走り、びりびりとした感覚が手から右腕全体を駆け抜けていった。
 「あいやーーー!!!」
静寂の映画館内で、僕1人だけが雄叫びを上げながら陸地に打ち上げられた魚みたいに、「ピーン!!」と立ち上がり悶えていた。
「どうしたの!?」
それまでの甘くなりかけた風情から解放された丘佐紀さんは、異変を示した僕を心配して問いかけてきて、また周囲の客たちまでも「何事か!?」と視線を浴びせてきていた。
やっちまった、台無しにしちまったよ。
 僕を襲った異変の正体、それは「ファニー・ボーン」。
肘の上腕骨の内側辺りにある部分を叩いたりぶつけてしまった時に、神経に影響して痺れるような感覚を受ける、誰しもが体験したことがあるだろう現象だ。
丘佐紀さんの手をそっと握ろうと試みた僕は、変な体勢で無理に力を加えてしまったがために、木製の肘掛けにまんまと「ファニー・ボーン」してしまったらしい。
叫び声を上げてしまったけれどその割には痛みはほとんどなく、腕を駆け巡った痺れに対しての反射的行動と言えた。
問題の部分をさすりながら、視線を浴びせていた観客に頭を下げて詫びつつ。
恥ずかしいぃぃーーーー!!誰か僕を殺してくれーーー!!!
僕は極力何事もなかったかのように椅子に座り直して丘佐紀さんに応えるが、ちっとも平静を保ててはいなかった。
愛する彼女との記念すべき映画館デート、丘佐紀さんが起こした恋のアクションに対する僕の答えがこれかと思うと、いたたまれないしまともに顔を見ることもできない。
 「・・・ごめんね・・・・」
蚊の鳴くような声で丘佐紀さんに謝るのが精一杯で、この上ない醜態をさらしてしまった自分への悔いが溢れてきて止まらなかった。
それに最初のうちは心配してくれていた丘佐紀さんだったが、僕に大事無いことがわかると寸前の光景が面白くなってきたのか、僕の奇声を伴った奇行を思い出しては、口元を押さえて上品な仕草で笑いだしてしまったではないか!!
忘れてーー!!お願いだから、思い出さないでーーーー!!
「ふっふふふ、ご・・ごめんなさい・・・ふふっふふふ!!」
謝らないでーー!!余計悲しくなってきちゃうからーーー!!

 映画を見終えて映画館を出て来た僕たちは、併設されたショッピングモール内をぶらぶらしていた。
見たかった映画を見ることができた丘佐紀さんは上機嫌に、隣を歩いている。
だがその一方で、僕の心は晴れずに重くショックを引きずったままだった。
予期せぬハプニングだったとはいえ、よりにもよって丘佐紀さんの前で演じてしまった失態が、完全に尾を引いていたからだ。
その直前に見せてくれた、丘佐紀さんからのまさかの積極的アプローチによって生まれかけた甘い雰囲気を、みすみすぶち壊してしまった僕はしばらく立ち直れそうにない。
こうして並んで歩いている今だって、彼女の顔を真っすぐに見ることができずにいた。

 とはいえ、いつまでも落ち込んでいたってしょうがない。
ちょうどお昼時を迎えたモール内で、僕は昼食を取ろうと提案して、丘佐紀さんも同意してくれた。
 飲食店が連なるフロアに移動したまでは良かったけれど、お昼時を迎えて今、皆考えることは同じで、どこの店も人で賑わっては行列になりつつあった。
日曜日なのだから充分にあり得ることだと理解しつつも、押し寄せる人混みを実際に目にすると冷静さを欠いてしまいそうになってくる。
僕は考えを巡らせる、丘佐紀さんに喜んでもらえる最適解を求めて・・・・。
「何か食べたい物はある?」
「う~ん、特にないんだけどね・・・・。」
よっぽど食べたい物が彼女にあるのならば、目当ての店の行列に並んで待つのも致し方ないと思ったが、特に希望がないことを知ったので方針を変える必要があった。
・・・・・・・・・・、それならば。
「フードコートでもいい?」
「うん、私は全然いいよ。」
僕は早々に各種料理の専門店が立ち並ぶエリアを選択肢から外すことにして、フードコートエリアでの食事に切り替えて賛同を得ることができた。
 
 大学などの学食を思わせるテーブルがいくつも配置されたフードコートエリア、ここではテーブルの周囲を取り囲むように営業している店で料理を注文して、客自らが確保した自分のテーブルまで出来上がった料理を運んできて食事をするスタイルの空間だ。
専門店で食べるよりはいささか風情に欠ける気がしないでもなかったが、背に腹は代えられなかった。
 やって来た僕たちは料理を注文するよりもまず、席を確保することを優先した。
空いているテーブルを探し目を配らせてみると、おあつらえ向きに食事を終えた家族連れの一団が、席を離れようとしているところなのを発見した。
「あそこの席が空きそうだよ。」
僕がそう言って合図を送ると、彼女は「良かった。」と答えた。
 おしぼりを何枚かもらってきた僕が、空いたばかりのテーブルの上を拭いていき、向かい合う形で丘佐紀さんに対面の席への着席を促した。
やれやれ、とりあえず席を確保できたことに安堵する。
こんな混み合った空間で、長時間丘佐紀さんを座らせもせずに待たせることになったのならば、それは悲惨以外の何者でもない事態だった。
まぁ、多少待たされたくらいで機嫌を損ねてしまう狭い心の女の子ではないことはわかっているが、女心は複雑で繊細ということもそれなりにわかっているつもりだ。
 「さてと・・・それじゃあ何食べようか?」
「そうだねぇ~、奔瑚君は何か食べたい物ないの?」
「え、僕?そうだなぁ・・・・・」
丘佐紀さんからの切り返しに、答えに詰まってしまう。
彼女の希望に合わせることばかり考えていたからか、自分が今何を食べたいかなんてまったく考えていなかったから。
だが、あまりウジウジして答えを出せないでいると、「優柔不断」な男と思われてしまうかもしれない。
そこで僕はざっと周囲に立ち並ぶ店を見渡して、比較的待ち時間が少なそうでいて、かつ女の子が喜びそうなメニューの把握に神経を研ぎ澄ませていった。
「・・・・・・オムライス・・・・」
「うん?」
「お・・・オムライス、なんかいいんではないでしょうか・・・・・?」
何だか自分のチョイスが試されているような気がして、語尾が弱気に早口になってしまった。
「いいね、私もそうしようかな。」
「本当!?」
自信がなかったメニューの選択に賛同を得られたことで、僕の心は一気に軽くなった。
「じゃあさ、僕が丘佐紀さんの分も一緒に買ってくるから、ここで待っててもらってもいい?」
「いいの?」
「いいよう!!」
能か歌舞伎の世界なのか、意気揚々と答えた僕は席を離れていった。
 
 オムライス屋の前にできている列に並ぶこと数分、客の注文に対する店側のレスポンスは並みといったところで、思うように進まない。
全然関係ないかもしれないけれど、カウンター越しに動き回っている調理スタッフの中で、1人だけポツンと暇そうにしている彼は、一体何なんだろうか・・・・?
所在なさげに立ち尽くし、他のスタッフの忙しなさにも我関せずというふてぶてしさに、「お前も働きなさいよ!!」と言ってやりたくなってきた。
離れた場所のテーブル席に丘佐紀さんを1人残してきてしまったわけだけれど、退屈にしていないかな、待ち時間にうんざりしていないかな?
ただ自分の順番が来るまでは並んでいることしかできない僕は、時間が経過する度にまたも不安の種が芽吹いてくる思いだった。
 「次のお客様、お待たせいたしました。ご注文をお伺いいたします。」
やっとだ、やっと僕の順番がやって来た。
レジ担当の女性店員の呼びかけに、思わず砂漠の中でオアシスにたどり着けたような感慨を覚えた。
「オムライス2つ。」
「ソースの方はどうなさいますか?」
えっ、ソースってバリエーションあるの!?
デミグラスソースはおろか、基本オムライスにはケチャップ一択の僕にとって、まさに寝耳に水の問いかけだった。
「・・・何があるんですか・・・・?」
己の無知を晒してしまうことは恥ずかしかったが、一刻も早く丘佐紀さんの元へ料理を届けなければならないという使命感が、僕に恥も外聞も捨てさせていた。
「デミグラスソースとホワイトソースがございますが?」
およよ、弱った。
丘佐紀さんはどちらが好みなのだろうか?
いったんこの場を離脱して、確認に行ってみるか?
いや、それは無理だろうと、僕の背後に居並ぶ客の姿を見て思う。
「では、デミグラスソースとホワイトソース1つずつで。」
「かしこまりました。」
財布から千円札を2枚取り出して先に会計を済ませると、店員の誘導に従って横にずれ、注文したオムライスが完成するのを待つことになった。
さすがにここまでくると、長かった待ち時間の終わりも近く、程なくして提供された出来立てのオムライスをお盆に乗せた僕は、ずいぶん待たせてしまった彼女の元へと向かっていった。

 お盆を落とさないように両手でしっかりと持った僕が、テーブルに近付いていくと、丘佐紀さんが優しい笑顔を振りまいて出迎えてくれた。
「ごめん、待たせちゃったね。」
「気にしないで。それより私の分まで任せちゃって、ごめんね。」
自分が待たされたことよりも、僕に任せてしまったことを申し訳なさそうにする彼女は、やっぱりいい子だなぁ。
いくらでも並んじゃうとも、君のためなら夜通し並んだってへっちゃらだよ。
僕はテーブルの上にお盆を乗せてから、湯気を立てているオムライスを選んでもらうことにする。
「デミグラスソースとホワイトソース、どっちがいい?」
「奔瑚君は?」
「僕はどっちも平気だから、好きな方選んでよ。」
「それじゃあ、ホワイトソースの方をいただくね。」
選択した方のオムライスのお皿を手に取り、彼女の前にスプーンと共に差し出した。
せっかくの料理が冷めてしまわないように、僕たちは黙々としばらくの間味わいながら食べていた。
でもその間も、僕の意識は丘佐紀さんのさりげない所作に奪われてしまい、気を抜けばずっと見惚れていそうだった。
手にしたスプーンに控えめな量のオムライスをすくっては、口に運ぶ前に「ふーふー」と冷ましてから食べている。
さらさらの髪を自然にかき上げる仕草も交えながらのすべての所作が、いちいち美しく思えてしまう。
もちろんその様子をガン見できるわけもないので、横目に映す程度ではあったが、僕は捉えた映像を脳内で永久保存することにした。
 そうしてお互いに半分ほど食べ進めた頃、丘佐紀さんが不意にスプーンを握る手を止めて笑い始めた。
「どうしたの?」
何事かと思った僕が聞いてみると、彼女は声を押さえながらも笑いが止まらなくなっているようだった。
「ううん、・・・・さっきの奔瑚君のこと、思い出しちゃって・・・」
ああ、映画を見ていた最中に僕が晒した醜態のことか。
僕の身体に体重をかけて寄り添ってきた丘佐紀さんに応えようと、手を握ろうと思って伸ばした腕に、「ファニー・ボーン」炸裂!!
痺れる衝撃に反射的に出た、僕の叫びとアクションの様子が、彼女の中で蘇ってきて思い出し笑いをしてしまっているのだという。
この時間軸において、出会いの瞬間から今日を迎えるまでは、余裕のあるスマートな大人の男を心掛けて演じてきたことは自覚している。
おそらくそういったこれまでの僕のイメージと、先ほど目撃した姿に大きなギャップが生じてしまったのだろう。
そのため強く丘佐紀さんの記憶に残り、ふとした瞬間に時間差で込み上げてくるのか。
「ご・・ごめんね・・・、笑っちゃダメだよね・・・・」
笑いを何とか止めようと、自分を律して気を遣ってくれる彼女の様子が逆に辛い。
「丘佐紀さんには、いつも幸せに笑っていてほしい」
この思いに一片のウソ偽りはないけれど、今丘佐紀さんが表現している笑いは、残念ながら少し意味合いが異なるものだった。
僕にとっては不本意極まりない過程から生まれた丘佐紀さんのその笑顔は、複雑な男心にちくちくとトゲを刺されているような感覚のようで。
「好きなだけ笑っちゃてよ、もう思う存分笑っちゃってよ。」
拗ねるように半ばやけくそ気味に、僕は彼女に我慢しなくていいよと言ってみた。
「・・・・・・・・・。」
羞恥で顔が真っ赤になってしまって、上昇した体温で首から上が熱くなっている自覚があった。
「ふうぅ~、もう大丈夫。」
思い出し笑いがひとまず落ち着いたらしい丘佐紀さんは、呼吸を整えながらなおも恥ずかしそうにしている僕のことを、じっくりと物珍しげに見つめて目を細めていった。
「・・・何か、初めて見せてくれたね。」
「・・・何を・・・?」
「慌てたり恥ずかしそうにしているところを。」
そうしみじみと語る彼女は、どういうわけかどこか感慨深そうな様子だった。
「お恥ずかしい限りです・・・。」
「そうじゃなくて。バカにしたり責めたりしているわけじゃなくて・・・」
「・・・じゃあ・・・どういう・・・・・?」
「上手く言えないんだけど・・・・、奔瑚君っていつも落ち着いていて大人っぽくて、同い年の男の人とは全然違うっていうか・・・・・。」
「・・・うん・・・・。」
「そういうガツガツしてないところは好感が持てるっていうか・・・とっても安心できるんだけど・・・・・」
「・・・うん・・・・。」
「少し完璧すぎるっていうのかな・・・・、今日までは・・・私とは少し距離があるかな、とも思ってたの・・・・・。」
 確かに過去の時間軸での失敗体験から学んだ僕は、少しでも丘佐紀さんに良い印象を持ってもらうために、あえて少し距離を取りつつも余裕のある大人な男を演じて接してきたのは確かだった。
本当は恋愛初心者であり、恋の成功体験もなければ、異性に臆病なふがいない僕であるにもかかわらずに頑張ってきただけなのだけれど・・・・・。
「だけど・・・さっきの映画館の時とか・・・・今、目の前で恥ずかしそうにしている奔瑚君は・・・、私にとって初めて見る姿で・・・・・」
「・・・・・・・・・。」
それはそうだろう、僕だってできることなら永遠に見せたくはなかったさ、こんな姿は。
この先に紡がれる、丘佐紀さんの言葉の続きを聞くのがとても怖くなった。
発言の内容次第では、この時間軸も失敗に終わってしまう可能性もなきにしもあらずなわけで。
初めて目にした僕の意外すぎた行動に、彼女が幻滅したのだとすると大いにあり得る結末だ。
「・・・・・・・・・。」
僕はごくりとつばを飲み込み、続く言葉を待った・・・・・。
「・・・新鮮だった!!それに・・・とっても可愛くて、何だか胸がキュンってなっちゃった・・・・。」
「・・・・・?」
一瞬、丘佐紀さんが何を言ったのか、よく意味がわからなかった。
これはつまるところどういうことなんだと、困惑を隠せない僕が彼女の方に視線を上げると、丘佐紀さんはわずかに頬を染めて乙女の表情をしていた。
「はえ!?」
そんな反応に、無意識に間抜けな声が漏れ出てしまった。
「だから今ね、私は奔瑚君のことをとっても近くに感じられる気がしてるんだ!!」
「・・・はぁ・・・・。」
そう言われても、依然として僕は彼女の発言の真意がよくわからずにいた。
「女心」の機微、僕にはわかるはずもない感覚だからなおさらに。

 戸惑いながらも食事を終えた僕は、理由は不明のままにテンションが上がった感じの丘佐紀さんと、もう少し遊ぶ流れになっていた。
 その戸惑いは、雑貨屋に入ったタイミングで加速度的に増すことになる。
女の子が好きそうなグッズや小物で彩られたきらきらした店内は、男性が1人で入るにはハードルが高すぎる空間だった。
丘佐紀さんを連れ添って入った僕でさえ、目まいを起こしそうな場違い感だ。
客層の大半が女性で占められているのも手伝って、目のやり場にも困りそうな有様だった。
 ファンシーな熊のぬいぐるみを手に、少しおどけてみせる丘佐紀さん、最高じゃないか!!
サンプルの香水を自分の手首に吹き付けて、「この香りどう?」と僕の眼前に差し出してくる丘佐紀さん、いい匂いがしすぎて、もう香水によるものなのか彼女の香りなのか判別不能で卒倒しそうだが、最高じゃないか!!
店内にある商品のどれもこれもが、所詮丘佐紀さんの魅力を引き立てる黒子でしか効力を発揮できずに、彼女がいかに可憐で愛おしい存在なのかを感じた僕は、終始主導権を握られっぱなしで冷静さを保つことは困難を極めていった。
 女の子との2人きりでのウインドーショッピングは、過去の時間軸でも経験済みで問題ないと思っていたのは大間違いだったようだ。
一緒に行動する相手が違うだけで、その女の子に抱いている感情の重みが違うだけで、過去の経験はほとんど無意味だと言えた。
恋愛経験値の足りなさが、メッキがはがれる音と共に僕の中で次々と露見し始めている。
だがその隣から、華やかな声が語り掛けてきた。
「ねぇ、奔瑚君。今日の記念に、何かおそろいのものを買おうよ。」
「う・・うん、いいね。」
「何がいいかなぁ~」
「・・・そうだね・・・・」
いかん、映画を見て以降、僕は完全に後手に回ってしまっている。
僕がリードしなければ、自分の運命は自分で動いてこそ掴めるのだ。
「せっかくだから、身に着ける物がいいよね!!」
「そうですね・・・」
前言撤回、この状況下において、僕は無力であり流れを変えられる気がしない、下手に動いて藪蛇な結果を招いてしまうくらいなら、少々みっともなくても彼女に身を委ねてしまいたいと思います!!
 丘佐紀さんは楽しそうに、吊り下げられているネックレスを手にしてみては、「こっちの方がいいかな?」などと、小首を傾げたりしている。
たとえ彼女がどんなに奇抜なデザインのものを選んだとしても、僕は躊躇うことなく賛同して、嬉々として身に着けて過ごすだろう。
僕も選ぶふりはしているものの、あくまでもポーズに過ぎないのはそのような本音があるからだった。
 数分後、迷った末に丘佐紀さんが選び手にしたネックレスは、肌触りの良い金属に結ばれた小さなハーモニカがぶら下がっているものだった。
「どうかな?」
上目遣いに伺いながら、彼女は僕の意見を求めてくるが、答えは決まっていた。
「いいじゃん!!うん、すっごくいいよ!!」
仮にどんなものを選んだとしてもそう答えるとは決めていたが、実際本当にオシャレなデザインだと思ったから、言葉には僕の心が存分にこもっていた。
 早速2人でハーモニカの付いたネックレスを手にレジへと向かい、お会計を済ませた僕たちは店を出てすぐに開封していた。
よっぽど早く身に着けたかったのだろうか、丘佐紀さんはネックレスの1つを手にすると、「着けてあげるね。」と、何と僕の首元に手を伸ばしてきたのだった。
こうなると僕は、またしても発狂寸前であり、何このご褒美イベントは!?
彼女にされるがまま全身を硬直させた状態で、僕は買ったばかりのネックレスを着けてもらった。
僕の身体に触れてしまうのかしまわないのかのギリギリの距離感から解放されても、僕の動悸は治まろうとはしなかった。
 が、イベントはなおも続き進行していくことになる。
「じゃあ、私の分は着けてもらってもいいかな?」
「え・・・・?」
何ですとーー!?何ば言いよっとねぇーーーー!?
動揺と驚愕に恐れおののく僕を尻目に、丘佐紀さんはネックレスを着用しやすいように髪をかき上げて待機している。
落ち着け、落ち着くんだ!!
痙攣したのかと見紛うほどに小刻みに震える手でネックレスを掴んだ僕は、神秘の領域へと突入しようとしていた。
だが思うように手が動かずに気持ちばかりがはやる僕、その様子を女の直感的に感じたのか、丘佐紀さんはごく至近距離にある耳元で囁いた。
「緊張してる?」
「そ・そそそんなことはないけど!!」
ウソだね、超絶に緊張しているね、緊張しまくりでんがな!!
僕は強がるように裏返った声で答えるが、完全なる虚勢だ。
「落ち着いて。」
無防備な首筋を僕に見せたまま、緊張をほぐしてくれようとそう言ってくれたが、僕の脳内はとろけかけていて、牙を抜かれた狼どころかクラゲのように背骨までをも抜かれてしまっている。
それからどれくらいが経ったのだろうか、やっとの思いで僕は丘佐紀さんにネックレスを着けてあげることができた。
「ありがとう♡」
と彼女は微笑みながらお礼を言った後、僕に向けて小声で「可愛かったよ。」と小悪魔的に付け加えたのはひどく衝撃的だった。

 よく遊んだし心から楽しんだ、丘佐紀さんとの1日が終わった帰り道。
駅で別れた後乗り込んだ電車内で僕は座席にもたれかかり、充実感と失態への後悔と、それ以上に刺激的すぎた彼女との時間を思い出しては、身悶えしながら1人ジタバタしていた。
心地良い適度な疲労と、精神的な消耗を感じながら・・・・。




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登場人物紹介

奔瑚雨汰・・・(ほんこ うた)。

主人公で21歳の大学生。

これまで女の子と付き合ったことがなく、恋愛に奥手の平凡な男。

丘佐紀由希・・・(おかさき ゆき)。

21歳、主人公と同い年で市役所勤務。

奔瑚の親友川下と同じ高校・少林寺拳法部に所属していた。

川下臓漢・・・(かわした ぞうかん)。

21歳の大学生。

奔瑚雨汰とは小・中学校の同級生で、野球部で共に汗を流した親友。

大沼怜美・・・(おおぬま れみ)。

21歳、川下や由希と同級生で、同じ少林寺拳法部に所属。

明朗快活な性格で、高校卒業後アパレル関係の仕事をしている。

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