第3話
文字数 1,290文字
サンフーは雨音を聞きながら、夜遅くまで作業をしていた。
別に急ぎの作業ではなかったが、好きな仕事ではあった。
簡単な作業で、発掘した「鏡」を、色や大きさによって仕分けするのだ。
銀色の小さな鏡、大きな鏡、ケース入りのやつ、金色の小さな鏡、大きな鏡といったふうに分けてゆく。
ひどい傷がついている場合は、飾り物の材料として、それも売る。
母や兄弟の住む町の彼らの家の中にはとくに選りすぐったきれいな鏡が何枚も飾ってあった。
鏡の裏面にはいろんな文字や絵が描かれていて、それを見るのは結構楽しいことだった。
ランタオは別室にこもって、作業をやっている。
その部屋には高価な器材がたくさんあるため、サンフーは入れてもらえなかった。
だから、その部屋が何をするための部屋なのかはサンフーはまったく知らない。父親はもうすこしサンフーが大きくなったら、入れてやろうという。
しかし、それまでに昔の言葉を学んで、読めるようにならねばならないというのだ。
翌朝はすこし肌寒いぐらいだったが、雲一つなく晴れ渡った気持ちいい朝だった。
一晩中吹き荒れた強い風が溶解雨の雲を消し去り、からっと湿度の低い空気の中には残存毒素はほとんど見られなかった。
穴の入り口に立てかけてあったフラッターハンマーはやはり、ドロドロに溶けた鉄屑と化していた。
「うわぁ、やっぱりダメだったね」
「だな」
サンフーは恐ろしくなって、父の髭面を見ることができなかった。
フラッターハンマーがどれほど高価なものかは知らないが、自分の不注意だと思った。
今の作業にはこの壁面を平らにする道具は絶対に必要なものには違いなかった。
「穴の中はどうだろう」
ランタオは、縄梯子につかまって、穴の中に降りていった。
手には毒素計がある。
「大したことはないが、少々水が溜まったな。ポンピングして、サク・スペ洗浄したほうがいい。どっちにしてもしばらく様子を見た方がいいだろうな」
「今日は?」
「今日は仕事にならないな」
やった! と、サンフーは内心、躍り上がった。
仕事が休みになれば、一日中、遊んでいられるからだ。
だが、その期待は、次のランタオの一言で崩れ去った。
「ちょっと、仕事を頼みたいんだが」
ランタオはそんなサンフーの期待を知らずにか、にべもなく言い放った。
「仕事?」
サンフーの顔色が曇った。
だが、その落胆は一瞬しか続かなかった。
「ちょっと、一人でバザールまで行って、フラッターハンマーを買いに行ってきてくれないか」
やった!
町に行ける!
ステップバイクに乗れるのだ。
再び、サンフーの顔は期待に紅潮する。
ステップバイクとは、草原を走行するためのケイバー浮上式バイクである。
サンフーは今年、はじめて乗り方を教えてもらい、やっと意のままに動かせるようになったばかりだった。
「うん! じゃあ、バイクを取ってくるよ」
サンフーは快活に頷いて、格納庫に向かって走り出した。