第5話

文字数 1,606文字

 テントの入り口でサンフーがモタモタしていると、後ろから14、5歳の少年たちが4、5人やってきた。
 テントに首をつっこんでいたサンフーは、驚いてテントを離れ、道を開ける。 
 少年たちは、制服をらしきものを着て、おそろいの帽子に、カバンを持っている。
 「やった。ジジイ、今日もまた寝てるぜ」
 「よし、いこうぜ」
 少年たちは、おじいさんを無視して、サッサとテントの入り口にやってくる。
 と、少年たちのうち、リーダー格らしい少年が、サンフーに話しかけてきた。

 「君も観たいなら来いよ」
 「えっ」
 「ここにジジイ、

が始まると、いつも寝てるんだ」
 「で、でも」
 「気にするこたあねえよ。仕事中に寝てるジジイがわるいんだからな」
 サンフーは、少年と寝ている老人の方を交互に見比べる。
 「観たいんだろ。顔に書いてあるぜ。こっちこいよ」
 テントから次々に人が、わいわい言いながら出てくる。
 「今、上映が終わったばかりさ。今入れば最初から見られるよ」
 サンフーは、少年の誘いに応じて、出場していく人の波を分けるように、テントの中へと入っていく。
 中は真っ暗で、人でいっぱいだ。


 「この人たちは出てかないの?」
 「途中から見た連中が、もう一度見るのさ、ここに来いよ、僕らだけの特等席だぜ」
 少年たちは、本来の座席ではなく、荷物らしい大きな木箱が並べてあるところ積んである、一段高いところに座っている。
 サンフーも、その木箱によじ登ろうとする。
 少年が手を伸ばして、引っ張り上げてくれる。
 「ありがとう」
 ステージの真ん中に、光をまとった1人の少女が現れる。
 きれいな衣装を着て、身体がほのかに輝いている。
 「あれは!?」
 「へえ、こういう映画屋は初めてか」
 「うん。学校では見たよ。まんがの映画だけど。校庭に幕を張って、先生が機械で映していたけど」
 「そうか。これはもっと進んだやつさ。

っていう」
 「えいが……人間」
 「まあ、人間っても、なんてったかな……ナントカっていうんだけど……。あれは人間に見えるけど、

でできた作り物の人間さ……」
 「ええっ! うそ!?」
 「ほら、透き通っているだろう。彼女自身が、映画なのさ」
 いたずらっぽく笑う少年。
 サンフーは少年にからかわれてるのではないかと思った。
 でも、まばゆく輝く彼女の姿が、なんとなく透き通っているような気もする。
 「あの子が、

!? でも、ちゃんとそこに、いるよ」
 「そういう立体の《えいが》なのさ」 
 「リッタイ?」
 「つくりもののさ」
 サンフーはしげしげと、美しい少女を見つめた。
 「こんにちは、みなさん。今日、見ていただく映画は……」
 

の少女が、喋りはじめる。
 「つくりもの? あの子が!?」
 「おうよ。昔の、そう。

ってやつさ」
 「カリク…レビト?」
 「詳しいことは知らんさ! ほら、映画が始まるぜ」
 それが「つくりもの」だとは思えないサンフーは、目を見開いて、少女を見つめる。
  少女は、踊るように優雅に手を伸ばした。
 「それでは、ごらんください。『ゴン、ウィザザ、ウィン』」
 すると、照明が落ち、魔法のように空中に四角いスクリーンが生まれる。
 フッ、と少女の姿は闇に溶けるように消える。
 「なんて映画だろう? 今の、ゴンって、どういう意味?」
 少年は答えず、もうスクリーンに見入っている。
 スクリーンでは、映画が始まる。
 少年が答えてくれないので、サンフーもまた、スクリーンに見入りはじめる。

 照らされる、観客たちの顔。
 画面の中で、夕日が燃える丘の上で、女の人が天を仰いでいる場面。

 サンフーの顔も、少年の顔も、夕日の色に染まっている。
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