序章2 成人の義2

文字数 1,034文字

息をひきとる母、優しい眼差しの父、じいやとの訓練の日々、、、
これまでの人生が走馬灯の様に浮かんだ。
父からの愛情を裏切る訳にはいかない。私には使命がある。

私の股間は、静けさを取り戻した。

頭に角を生やした黒髪の巫女は、何事もなかったかの様に、音鼓の身体に寄り添い、清めを行った。
清めは、南天の葉で全身を撫でる。

巫女をチラリと見ると、少しうつむいていた。下唇を噛んでいる様に見えたが、それ以上は見ることが出来なかった。

気が付くと、頭には冠があった。
無事に、成人の義を終えたようだ。
思い出そうとしても、義の事はほとんど思い出せなかった。
ただ黒髪の巫女の事だけが、目に浮かぶ。

「よくやったな、音鼓。いや、音乃鼓麻呂殿、父は誇りに思う」
優しい笑みを携えた父がそこにはいた。ここは、父の住まう本邸である。正室、嫡子の姿もそこにはあった。
「世良親王様からも、そなたへお褒めのお言葉を頂いておるぞ。明日は、天皇の宮にて、祝詞を賜る。引き続き、励むように。」
私は、はい。と返事して、頭を深く下げた。
「成人の義の日は、何も食べてはならない。疲れているだろうから、ゆっくり休むように。明日は宴だ。」
理性と優しさに溢れた父の言葉であった。

私は拝頭の姿勢のまま下がり、自室のある離れに移動した。

何が起こったのだろうか。私は確かに勃起していた。本来であれば、公家落ちである。
巫女は気付かなかったのだろうか。それとも、見逃してくれたのだろうか。そもそも、なぜ遺児が巫女であったのか。
深いため息が出た。
いっそ公家落ちした方が、良かったのではないか。この抑圧された日々が、これからも続くのかと、とも思った。

音鼓は、胸に手を当てた。

公家としての生活が明日から始まる。音鼓は冠を置き、代わりに刀を手に取って、庭に出た。刀といっても、短い懐刀である。鍛えなければ。

武力が武家だけのものであった時代は終わっていた。今は公家も力をつけ、武家と戦わなくてはならない。表だった戦ではない。暗殺と呼ばれる殺し合いだ。暗殺は個人の力量が頼りである。殺す側も守る側も。

「今日は、もうおやすみください。」じいやが声を掛けてきた。
もう少しだけ、と答えると、じいや何も言わずに、その様子を眺めていた。

汗をかいたまま、離れの自室に戻った。そこには、先ほどの巫女が座っていた。目が合う。こちらをじっと見つめていた。やはり下唇を噛んでいた。

序2 終わり。
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登場人物紹介

主人公:音鼓。公家の側室の子ども。第二皇子の護衛。

???:黒髪の美少女。角が生えた鬼の子。巫女。

【主人公の家族】

・父:公家。法家との折衝担当。

・義母:父の正室。

・嫡子:正室の子。

・じいや:主人公を別邸にて育てた。

【公家】

・天皇:公家の元首

・第一皇子

・第二皇子:主人公が仕える。正室が従兄弟(義母の姪)

・第二皇子の側近:醜女。

・第三皇子

・上皇

【武家】

・将軍:武家の元首。第二皇子と仲が良い。

・大納言:将軍の長男。

・中納言:将軍の次男。

・小納言:将軍の三男。幼少。側室の子。

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