第2話 ドラマチックな出会い

文字数 1,247文字

「会ったばかりなのに、なんだか初めての気がしなくて。とても気さくな人なんですよ」

 お互いの奥さんを交えた4人でお茶を飲みながら話していくうちに、その中年男性・田丸さんは「鳥取のデザイン会社(注:我が社ではない)の社長」であることが判明し、亀田さんが、実は自分はグラフィックデザイナーなのだと言うとその偶然に驚きかつ喜び、「デザイナー募集中だから、よかったら来ないか」ということになり、その時ちょうど前の職場に飽き飽きしていた亀田さんは、渡りに船とばかりによろこんでその話を受けたらしい。

 ……なんとまあ、まるでドラマのような展開ではないか。

 ちなみにそれまで鳥取には縁もゆかりもなく、訪れたことすらなかったそうで、これぞ「袖振り合うも多生の縁」とでもいうのか? ずいぶんフットワークの軽い人だと思った事を覚えている。

 しかし彼自身はそれで良くても、奥さんはそうはいかなかった。しかもその時にはすでに妊娠中だったそうで、転勤でもないのに、夫の半ば思いつきのような転職に同行して、突然知らない土地にしかも赤ちゃんを連れて移住するなんてもっての他だと、ずいぶん揉めたらしい。そりゃそうだろう、私が奥さんだったとしても断固反対だ。私は思わず奥さんに同情した。

「で、まあ妥協案として、出産を控えた妻にはいったん実家に里帰りしてもらい、とりあえず僕が単身赴任という形で鳥取の会社に入って、軌道に乗ってきたら妻子を呼び寄せるという事になったんです。あ、これが2人の写真なんですけどね、ほらこれ」

 亀田さんはスマホの写真を私に見せた。なかなか整った顔だちをした奥さんと、2、3歳ぐらいに見えるかわいらしいお嬢ちゃんがニッコリ笑ってこちらを見ている。

 だがその写真を見た瞬間、私の中に何か「引っかかる」ものが生まれた。うん、なんだ? 
 しかし答えが出る前に、亀田さんはすでにスマホをしまっていた。……まあいいか。
 とにかく、亀田さんはその後、一人で鳥取にやってきてその会社に1年弱ぐらいいたのだが、最終的には待遇面等で折り合わず辞めることに。

 あれ? そこの社長と打ち解けて仲良くなってた風なのに、意外とあっけない幕切れだな。まあ、実際に仕事上で上司と部下になると、うまく行かないという事もあるかもな。

「それでも、まあ僕もこっちの生活には慣れて来たし子どもにも会いたいしで、とにかく妻子を呼び寄せる事にしましてね。僕も鳥取に来たのは初めてでしたけど、住みやすくて良い所だとわかりましたし。子どもにとっても幼稚園とか学校を変わる負担がない、早いうちがいいだろうと思いまして。いまは2人ともこちらに来てるんですよ」

 言いながら亀田さんは、ニッコリとうれしそうに笑って「さわやか亀田スマイル」を繰り出した。

 それにしても、亀田さんの人生、まったくもって波乱万丈だよなあ。私は食後のコーヒーを飲みつつ、ずっと地元から出ていない、良くいえば平穏無事、意地悪くいえば単調で刺激のない自分の人生を、思わず振り返ってしまった。

 
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