第40話 冒険者パーティ

文字数 2,780文字

 イーファの乱入と謎の魔法に空の怪物たちは様子を見るように距離を取っている。
「しかし、この光は何なんだ?」
 ブレイスは落ち着きつつある周囲の様子を見ながら尋ねる。
 怪我をした者、助からなかった者は少なくないが戦うための戦力という見方ではまだ十分な数がそこにあり、みんな取り乱していたのが嘘のように落ち着いていた。
「サンハート、しばらくの間勇気を光の届く全てに与える魔法です」
「そんなの見たこと無いよ。なんで今まで使わなかったの?」
「魔法石の消耗が激しいのと、ブレイスさんやテルミスさんには使う機会が無かったので」
「まあ、勇気が必要って場面は俺らの場合確かにないな」
 ブレイスも合わせるが、その頭は別なことを考える。
 イーファは黙っているが、この魔法はただ勇気を与えるだけのものではないだろう。何しろ彼女が作った独自魔法、対象の人物の能力を一段階引き上げる魔法と同じ効果が齎されている事は感覚的に分かる。
 だが黙っているという事は話すような内容でないという事か。
「というわけで、これから試してみたい魔法があるので守りのほうは宜しくお願いします」
「これはまた大きく出たね」
「それでこの絶望的な戦況をひっくり返せるか?」
「そこまでの効果があるかは分かりませんが、成功すれば大打撃は与えられると思います」
「なんか、イーファ過去にないくらいいやる気だねぇ」
「今回は魔法石の消耗を気にせずに使えるので、これまで使うのを我慢していた魔法をドンドン使っていきますよ!」
「そいつは期待大だな!」
 光以外に何も無いと分かると怪物たちは再び攻勢に出始める。
 その先頭をブレイスは軽々と切り伏せた。
 だが怪物たちが最も困惑したのは、それまで一方的に蹂躙されるがままだった筈の者たちが急に強くなったことだ。二人がかりでさえ満足に抑えられなかった怪物と守備隊たちは今、一対一となってすら互角に渡り合っている。
 まるで全員が正規の騎士に入れ替わったかのような戦いっぷりだ。
 襲い来る怪物たちを退けられる事が、その事実が守備隊の士気を一層に高めていく。
 それでも全く被害が無いわけではない。
 地上の怪物を落としてくる攻撃に対しては依然として有効な反撃手段はなく、いくら身体能力は上がっても弓矢の腕が急激に上達するわけでもない。
 だがブレイスはもう心配していなかった。
 今ここには、自分やテルミスでは届かない敵を相手にする専門職がいるのだ。
「――準備が出来ました! 」
「ようし、ぶちかませ!」
 イーファが杖を天に向ける。
 赤い宝石は輝き、飛び出した光が一本の柱となって天に昇っていく。徐々に村の上空を包みつつあった雲を貫き押しのけるように巨大な魔法陣が浮かんだ。流石にクリフが作って見せたものに比べると小さいが、それでも地上からその二重の円がハッキリ見えるほどの大きさはあった。
『イフリート・スピア!』
 イーファは杖の先を怪物たちへ向ける。
 瞬間、天上の魔法陣より無数の赤い光が、燃え滾る炎の槍が怪物たちを貫き焼き尽くしていく。ただ獲物はと下を見ていた怪物たちの多くが、頭上より降りしきる想定外の攻撃に対応できず火の塊となって落ちていった。
 歓喜の雄叫びが四方八方から上がる。
 たった一つの魔法、それにより空を飛び回っていた怪物たちは一気にその数を減らした。
 感覚的には三割ほどを焼き尽くしただろう。
「少しの間、守りはお願いしますね」
 イーファが言ってすぐ、怪物たちは魔法使いを発見し襲い掛かってくる。
 しかしブレイスとテルミスが、その牙と爪の接近を決して許さない。二人で挟むように位置取りクルクルと周りを回るように動きながらイーファを完全に守ってみせる。
「二人とも止まってください!」
 十分に時間を稼ぐとイーファから指示が出る。
 ブレイスとテルミスは言う通りに止まり、守りが無くなったと見た怪物たちは怒りと共にイーファへと殺到していく。
 だが――。
『ブレイズボム!』
 フワリと火の粉がイーファの周囲に舞った。
 小さな火の種は迫りくる怪物たちに触れると瞬間で膨れ上がり、強力な衝撃と熱の爆発となって迫ってきていた者たちを吹き飛ばす。一つ目の爆発を皮切りに他の火の粉も爆発を始め、耳を塞ぎたくなる轟音と衝撃、そして熱が固まっていた怪物たちを瞬く間に消し飛ばした。
「あーあー、大丈夫だ。聞こえる」
 爆炎が風に流された後、近くの敵が一掃された事を確認してからブレイスは声を出してみた。
「びっくりしたー。耳がおかしくなるかと思ったよ」
「ごめんなさい。耳を塞ぐように言うの忘れてました」
「でもま、俺らが無事だって事は音以外は狙い通りだったって事だろ?」
「はい」
 一番の脅威を叩くため集まり過ぎていた空の怪物たちは、その勢力の大半を失った。
 これだけ減ればイーファの強力な魔法は必要なく、地上から大型を持ち上げてきた怪物を狙ってテルミスの槍投げやイーファの即時発動できる弱い魔法で対処が十分可能だ。
 そして間もなく空から怪物たちの姿はなくなった。
 さて、とブレイスは胸壁から下を見る。
 後はこの連中をどうにかしなければいけないわけだが、今はこういった数を相手にするのが得意な仲間が来ているわけで、つまりはどうとでもなるはずだ。
「頼むぞ」
「はい」
 イーファが今まで聞いたことのない詠唱を行う。
 杖に刻まれた魔法陣、そしてイーファの才能が不要とさせていた呪文を今彼女は唱えている。
 つまり、それが必要になるような魔法を使うつもりなのだ。
 少なくともさっき天から炎の槍を降らせたものを超えるであろうことを考えると、いったいどんなものが出て来るのか想像もつかない。
 詠唱が終わった。
 イーファは杖を掲げる。
 目が潰れそうなほどの光が発せられた後、現れたのは“三つ目の太陽”だった。
「わーお」
 手で目を庇いながらテルミスが思わずといった様子で驚きの声を上げる。
 それは本物は言わずもがな、背後で勇気を与えている光源よりもさらに小さい。しかし発せられる熱量は過去に訪れた灼熱の砂漠をすら涼しかったと感じさせるほどに凄まじい。
 小さな太陽はゴウゴウと音を立てながらイーファの頭上より壁の外へ。
 壁より少し離れた位置より怪物たちの頭上に落ちた。
 邪魔な全てを焼き尽くし地上に触れると急速に膨張を始め、先ほどまでの熱ですら優しかったと思える熱線が周囲の全てを蒸発させていく。思わず守備隊たちは胸壁の裏に隠れ、ブレイスとテルミスですら身を屈めて目を守るように手で覆った。
 溶けた氷の水が一瞬にして蒸気へ変化していく音が聞こえる。
 しかしその音がいつまでも消えないところをみると、怪物たちに傷つけられた時と同様に失われた瞬間に氷の壁は再生しているのだろう。
 そして熱線が消失したところで、それを魔法の終わりとブレイスは理解した。
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