第4話

文字数 1,844文字

 翌日、朝も早くに電話があった。早いといっても十時過ぎてたけどね。でも日曜だぜ。
「もしもし、替わりました。」
「ヨースケ君?わたしよ。わ、た、し、わかる?」
 畜生、わかりたくもない。
「サエコちゃんだろ。」
「どぉしてわかったの?すごぉい。」
 どうしてわかったの?うちの電話番号。
 どうせ、メグミかなんかを使って、タカシかなんかから聞き出したんだろうけど。まったくあいつら余計なことしてくれるよ。
「で、なに?」
「ごめんなさい。迷惑だった?」
 ああ、迷惑だよ。
「そんなことないけど、起きたばかりなんだよ、オレ。」
「まあ、お寝坊さんね. 起こしちゃってごめんね。」
 いい加減にしろよ。でも顔が見えない分、電話ってのはいいもんだね。声だけなら、ちょっとは可愛いかったりするからね。
「昨日はどうもありがとう。タクシー代まで出してもらっちゃって。わたしとっても嬉しかった。」
 そりゃ良うございました。
「で、今日は何?」
「別に用なんてないんだけど、昨日のお礼が言いたくて...」
 用がないなら電話なんか、かけてよこすなよ。
「どう致しまして。」
「それとぉ、ミュージカル、好き?『キャッツ』の招待券が二枚あるんだけどー緒に行かないかと思って」
 『キャッツ』だって、冗談じゃないよ。
「約束してた子が、急に都合悪くなっちゃって。」
 しらじらしい嘘なんかつかれると頭にきちゃうよ。まったく。ボクは嘘をつかれるのは好きじゃないんだ。嘘つきのくせにさ。
「残念だけど、オレもうそれ見たんだ。それに今日は模試があるし、本当に残念だな。」
 嘘の二段攻撃。ボクがミュージカルなんか見に行くもんか。それに、こんな時刻から間にあう模試なんてあるもんか。しかしサエコは根性あるね。
「そう残念ね。今度はバイクに乗せてね。忙しいだろうけど、たまにはいいわよね。息抜きだって必要だもの。あっ、わたしの連絡先はね、書くものある?」
「あるある。」
「えっとぉ.電話番号があ、047.........」
 メモなんかするもんか。聞かない努力。ボクには数字をすぐに覚えちゃうクセがあるんだ。暗記してる電話番号が百じゃきかないよ。本当だよ。
「わかった?タチバナサエコょ。」
「わかった。じゃ、そのうち電話する。」まだ何か、言ってたけど、聞こえない振りで、切ってやった。日曜の朝から何てこったい。受話器を置いた途端にベル。
「はい。」
「もしもし。菱垣さんのお宅ですか?山川と申しますが陽介さんいらっしゃいますか?」
「ヨースケはボクですけど。」
「あ、わたし。昨夜ディスコで会ったメグミよ。元気?」
 今度はメグミだって?どうなっちゃってるわけ?
「あぁ、なんとかね。」
「実は困っちゃってるんだけど、頼まれてくれない?」
「オレ?タカシはどうしたわけ?」
「実は、そのタカシ君のことで困ってるの。」
 ちっとも困ってないんだな。本当は。
「どうかした?」
「彼、わたしとつきあいたいって言うのよ。でも彼って、わたしのタイプじゃないんだな。ヨースケ君なら、モロ、タイプなんだけど。」
 君ってボクのタイプじゃないんだな。
「それでね。断りたいんだけど、気の毒で。あの人ってばわたしとつきあえないなら自殺もしかねないってカンジでさ、困っちゃってるのよ。」
 こういうのテクニックなんだ。自分がいかにモテるかってことを見せつけて、男の競争心をアオるっての。でもさ、それには相手が彼女を憎からず思ってなきゃ駄目なわけ。つまりメグミは、ボクが自分に気があると思ってるんだな。思い上がりもいいとこさ。ちょっとばかし美人なもんだから、周りにもてはやされすぎたんだろうな。その上、低能なもんで、すっかりいい気になっちゃってるんだ。可哀想に。
「それでね、ヨースケ君から代わりに言ってもらいたいの。」
 タカシがボクから断りの返事を聞いたら、どう思うかなんて、ちっとも考えてないんだ。何しろすごい馬鹿なんだから。
「それはまずいよ。本人から言った方がいいと思うよ。それにタカシは間違っても自殺なんてしないから心配ないよ。」
「そうかしら」
「そうだよ。そんなことくらいで自殺してたら、奴は今までに何度死んだかわかんないよ。
 それじゃ悪いけど、オレこれから出掛けるんだ。」
 即、切った。そんなに悪い気はしなかったね。これだけモテて嫌がる思がいたら、お目にかかかりたいね。仮にそんなふうに言う奴が、いるとしても、十中八、九はポーズだね。男ってのはみんなスケベなんだよ。それを抑える理性が強いか否かの差しかないんだよ。
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