番外編 食べ物を粗末に扱う若者達へ、君たちはいますぐこの小説を読みなさい
文字数 1,886文字
九州にある飲食チェーンの回転すし……そこにある外人女性がパート社員として入社した。
「ハーイ! オハヨウゴザイマース!」
「おお、アズ!」
この女性はオーストラリアから来ており、熱心に働く姿は学生バイトよりはるかに頼りになる存在である。
「ねえ、アズ。昨日のニュース見た?」
「ハイ? ナンデスカ?」
ただ仕事の外ではずぼらな面が目立つ女性でもあった。
このように、ニュースの類には全く興味を持たないのもその一つであり、同僚に尋ねられる度にこんなとぼけた返事をするのがいつものことだった。
「最近、うちの店の近くで殺人事件が多発しているんだって」
「ホントニ?」
「アズも帰り道気を付けた方がいいよ」
「…………」
ショッキングなニュース……だが彼女は意に介さず、何も聞かなかったかのような態度で仕事の準備を始める。
「ちょっとアズ……聞いているの?」
「……ダイジョーブ、オ店のミンナ、ワタシガ、マモル」
彼女は笑いながら、そしてどこか含みのある口調で己の担当である厨房へ向かった。鋭くとがった、犬歯を覗かせて。
時はすぎ、営業が始まってしばらくのこと。一人の高校生がスマホを握りながら店を出ていく。彼はしめたような顔をして笑っていた。
「……へっへ、これでバズれるぞお」
見ていたのは、店の中でバカなことをする己自身の動画……彼が何をしていたのか、その描写は語り手の意向で省かせていただく。湾曲的に形容するならば、命への侮辱とでも言っておこうか。
「……ハーイ、アナタ」
そんな彼に対して、後ろから声をかける女が一人。
「ん?」
「アナタ、トッテモッわいるど」
片言の上手とは言えない日本語で話した彼女。だがそんなことは彼にとってどうでもよかった。
「うわ!?」
なぜならとても美人であったから。プラチナカラーの髪と背の高く肉付きのある姿をしていた。
「イッショニ、ワタシト、アソビマセン?」
そんな彼女に逆ナンパされ、しどろもどろになる男。先程まではSNSでバカをやろうとばかり考えていた男だが、その美しい姿と肉食的な誘いによってそれは吹っ飛んだ。
しかも彼女は、誘いながらロングスカートをまくり上げる。肉付きの良い美脚を見せつけながら、太ももの付け根の部分まで晒して。
――しかもその付け根の先には、わずかな瞬間しか見えなかったが隠すべき布すら着けていない
「……はっはい!!」
男は迷わず答える。彼にこの刺激は、強すぎた。
「オッケー!!」
誰もいない橋の下へ連れて来られた、高校生。もっとワイルドな君を見せて、とそそのかされた彼は、とうとう誰もいないからと制服のボタンとベルトを外す。
――とうとう男子として生まれた証……それを己の野性で強く強張らせたのである。
ためらう理由なんて、なかった。なぜなら自分より先に、彼女も既に絹のない姿となっているのだから。
「……そ、それじゃあ!!」
身も心も、着飾らぬままの特攻。柔らかな体へと己の若き肉体をぶつけようと迫る。それを彼女は力強く受け止め――川へ向けて放り投げた。
「えっ」
戸惑いの声と共に宙を舞い水を背にした彼。ふと己の手を見ると、彼女を抱きしめたはずの己の手に無数の細やかな切り傷があった。そして一つ、独特な形をしたとがった鱗が刺さっていたのである。
「……モッタイナイコト、シチャダメ」
川に落ちた後、彼女がふとそう言った。その顔には謎の怒りがあった。
「……!?」
――そして、そこから彼女が見せたのは跳躍であった。芸術的なムーンサルトを決めながら、その肉体が謎の閃光に包まれる。
「――ッッッ」
その閃光に目を潰されたまま、彼の首に一瞬だけ激痛が襲いかかったのであった。
男の頭を砕く、三角の頭を持った魚……アオザメ。
「……ワタシ、モッタイナイノ、キライ」
彼女は、己の肉体を人間の女に戻し、川から上がってきた。お腹はさっきよりも丸みを帯びており、笑顔からのぞかせる白かった歯は全て、ほのかな赤に染まっている。それが、店の同僚が彼女に語った連続殺人事件の真相であった。
――今の世の中、SNSの上で食べ物を粗末に扱う様子を面白がる若者が劇的に増えている。
筆者の私が先程命への侮辱と呼んだ、この行為。オーストラリアの海で身勝手に同胞を殺された彼女は、それを決して許さなかった。
なぜなら、現実と空想の区別がつかない乱獲も、食べ物を粗末に扱うことも、失われた命に感謝のない者がする行為であるのは同じことだから。
感謝の心をなくした人間が、身勝手に命を奪うのを止めない限り、きっと彼女は何度も現れるだろう。
メタモルシャーク シー・ウィル・リターン 終幕
「ハーイ! オハヨウゴザイマース!」
「おお、アズ!」
この女性はオーストラリアから来ており、熱心に働く姿は学生バイトよりはるかに頼りになる存在である。
「ねえ、アズ。昨日のニュース見た?」
「ハイ? ナンデスカ?」
ただ仕事の外ではずぼらな面が目立つ女性でもあった。
このように、ニュースの類には全く興味を持たないのもその一つであり、同僚に尋ねられる度にこんなとぼけた返事をするのがいつものことだった。
「最近、うちの店の近くで殺人事件が多発しているんだって」
「ホントニ?」
「アズも帰り道気を付けた方がいいよ」
「…………」
ショッキングなニュース……だが彼女は意に介さず、何も聞かなかったかのような態度で仕事の準備を始める。
「ちょっとアズ……聞いているの?」
「……ダイジョーブ、オ店のミンナ、ワタシガ、マモル」
彼女は笑いながら、そしてどこか含みのある口調で己の担当である厨房へ向かった。鋭くとがった、犬歯を覗かせて。
時はすぎ、営業が始まってしばらくのこと。一人の高校生がスマホを握りながら店を出ていく。彼はしめたような顔をして笑っていた。
「……へっへ、これでバズれるぞお」
見ていたのは、店の中でバカなことをする己自身の動画……彼が何をしていたのか、その描写は語り手の意向で省かせていただく。湾曲的に形容するならば、命への侮辱とでも言っておこうか。
「……ハーイ、アナタ」
そんな彼に対して、後ろから声をかける女が一人。
「ん?」
「アナタ、トッテモッわいるど」
片言の上手とは言えない日本語で話した彼女。だがそんなことは彼にとってどうでもよかった。
「うわ!?」
なぜならとても美人であったから。プラチナカラーの髪と背の高く肉付きのある姿をしていた。
「イッショニ、ワタシト、アソビマセン?」
そんな彼女に逆ナンパされ、しどろもどろになる男。先程まではSNSでバカをやろうとばかり考えていた男だが、その美しい姿と肉食的な誘いによってそれは吹っ飛んだ。
しかも彼女は、誘いながらロングスカートをまくり上げる。肉付きの良い美脚を見せつけながら、太ももの付け根の部分まで晒して。
――しかもその付け根の先には、わずかな瞬間しか見えなかったが隠すべき布すら着けていない
「……はっはい!!」
男は迷わず答える。彼にこの刺激は、強すぎた。
「オッケー!!」
誰もいない橋の下へ連れて来られた、高校生。もっとワイルドな君を見せて、とそそのかされた彼は、とうとう誰もいないからと制服のボタンとベルトを外す。
――とうとう男子として生まれた証……それを己の野性で強く強張らせたのである。
ためらう理由なんて、なかった。なぜなら自分より先に、彼女も既に絹のない姿となっているのだから。
「……そ、それじゃあ!!」
身も心も、着飾らぬままの特攻。柔らかな体へと己の若き肉体をぶつけようと迫る。それを彼女は力強く受け止め――川へ向けて放り投げた。
「えっ」
戸惑いの声と共に宙を舞い水を背にした彼。ふと己の手を見ると、彼女を抱きしめたはずの己の手に無数の細やかな切り傷があった。そして一つ、独特な形をしたとがった鱗が刺さっていたのである。
「……モッタイナイコト、シチャダメ」
川に落ちた後、彼女がふとそう言った。その顔には謎の怒りがあった。
「……!?」
――そして、そこから彼女が見せたのは跳躍であった。芸術的なムーンサルトを決めながら、その肉体が謎の閃光に包まれる。
「――ッッッ」
その閃光に目を潰されたまま、彼の首に一瞬だけ激痛が襲いかかったのであった。
男の頭を砕く、三角の頭を持った魚……アオザメ。
「……ワタシ、モッタイナイノ、キライ」
彼女は、己の肉体を人間の女に戻し、川から上がってきた。お腹はさっきよりも丸みを帯びており、笑顔からのぞかせる白かった歯は全て、ほのかな赤に染まっている。それが、店の同僚が彼女に語った連続殺人事件の真相であった。
――今の世の中、SNSの上で食べ物を粗末に扱う様子を面白がる若者が劇的に増えている。
筆者の私が先程命への侮辱と呼んだ、この行為。オーストラリアの海で身勝手に同胞を殺された彼女は、それを決して許さなかった。
なぜなら、現実と空想の区別がつかない乱獲も、食べ物を粗末に扱うことも、失われた命に感謝のない者がする行為であるのは同じことだから。
感謝の心をなくした人間が、身勝手に命を奪うのを止めない限り、きっと彼女は何度も現れるだろう。
メタモルシャーク シー・ウィル・リターン 終幕